謹賀新年:がん放置療法が罪だとしたら,その罪は誰にあるのか?

みなさま.
あけましておめでとうございます.
本年もよろしくお願いいたします.

空気を読むとか
和とか
これを美徳と日本人は言っていますが
本当にそうでしょうか?

ガイジンからみると,和というのは,排除の論理なんです.
異質なものを排除する.

それは,国際化していくときに,決して美徳とは認められません.

仲良しクラブは,厳しい相互批判や切磋琢磨というプロフェッション・オートノミーを必ず欠いていきます.
だからこそ,先進国唯一の自由標榜制を変えられず,日本はガラパゴス化している.
ケータイだけの問題ではありません.

成熟した社会というのは,多様性を受け入れることができる社会です.

日本の美しい伝統だ,美徳だ.
そうとしか表現できないものって,本当にそうなんでしょうか?

そういって,排除の論理に使っていませんか?

右向け右.
他人と同じことをしないと不安.
みんな手術するから手術しないといけない.
みんな抗癌剤をするから抗がん剤をしないといけない.
みんな病院で死ぬから病院でしなないと恥ずかしい.

「あなた」はどこにいるのですか?
「みんな」とは一体誰ですか?

日本人はどうやら自分の考えを言ってはいけないと教育されているようですね.
しかし.ヨーロッパでは,自分の考えを言えないと,人間と認められません.
自分の考えを自分の言葉で述べるのです.

わたしは思春期にヨーロッパの白人社会でそういう教育を受けました.
だから,日本人的感性は壊れているかもしれない.

だけど,清水寺も富士山も美しいと思える.
何より,この国で生まれ育ちました.

でも.
やっぱりおかしいって思うんです.

一番大事なのは,「あなた」がどうしたいかであって
がんになった他人がどうしているかではありません.

治療したくなければしなくていいし
金の棒でなでる治療をしたければすればいい.それを治療と称するのであれば.
近藤先生のがん放置療法をやりたければそうしたらいいし
食事療法をしたかったらそれでもいい.
だって,何をするか決定する権利は,あなたにあるのだから.
前提として,正しい知識があってほしいものだと思いますが.

でも.もしも,正しい知識がなくて,選んでしまったのだとしても,わたしは近藤先生を責める気にも
あなたを責める気にもなりません.

わたしたち専門医が,もっと普段からあなた方に寄り添って,身近になんでも相談できる存在であれば
あなたは最初から私たちのところに来てくださったと思います.

あなたが専門医の話を十分聞かずに,放置療法や金延べ棒といった民間療法を選んだとしても
あなたは悪くありません.
わたしたち,がん薬物療法専門医が悪いんです.
がんになったとき,いつでも相談していいんだと言う雰囲気を全くかもしだしてなくて
病院のなかで偉そうにしているからです.

ましてや,積極的治療がなくなった段階で来たからと言って
どうしてこんなになるまでほっといたんだ?といって怒るとか
近藤先生を訴えるなら弁護士紹介するとか,そんなことを言う医師たちの気持ちが
わたしには判りません.

あなたがそういう行動をしたくなったのは,わたしたち,がんの専門医が,国民から遠い存在だからなのです.

そして,あなたが痛みに耐えられなくなって私のところに来たら
きっとわたしはこういうでしょう.

「これからは,痛みを取る治療をしましょうね.安心してください.
もう何もできないなんてことはありません.
痛みを取るのも,がんから引き起こされる症状の緩和という重要な治療なのです.
あなたの人生はあなたにしか歩けません.
あなたの愛する人たちがあなたを見守っています.

あなたが暗い顔をして,悲壮な毎日を過ごすと,あなたがなくなった後に,
あなたの愛する人たちが,あなたと同じように傷ついた状態で取り残されてしまいます.
そのとき,あなたはそばにいられないわけだから,あなたの愛する人たちを,
どうやってその傷から守るかということを,いま,あなた自身がしっかり考えなければなりません.

あなたが毎日を満ち足りて,笑顔で過ごすことが,
あなたの愛する人たちがあなたを失うことで受ける衝撃を緩和できるのです.

あなたがあなたの為に,そして,あなたの愛する大切な人たちの為に
毎日を安心して穏やかに最後まで歩めるようにお手伝いする.
わたしは,そのための専門医なのです.
がん薬物療法専門医は,抗がん剤の投与だけが仕事ではありません.
わたしたちは,がん患者さんの人生に最後まで伴走する専門医なのです.
大丈夫です.不安な時は,夜中でもいつでもわたしに電話していいです.
夜中に不安になって一人でいるのは辛いものです.だから,電話していいです.

もう一度言います.だれもあなたの人生をあなたに代わって歩くことは出来ません.

余命が限られた日々を,生きていくのは辛いことかもしれない.
でも.いつでもわたしがあなたのサンドバックになりましょう.
体当たりして構いません.なんでもわがまま言ってかまいません.
わたしは,そのための専門医です.
全力であなたを受け止めます.
がんになったのもわたしのせい,なにもかもわたしのせい,それでいいですよ.
だからわたしと一緒に,最後まで手をつないで歩きましょう.
あなたが最後まで自分でしっかり人生を全うできるように手をつないで歩く.
わたしはそのための専門医です.

 

わたしには,川島なおみさんがなくなった後に
もっと早く手術していたら助かったとか長生きできたとか
言っている医師たちのおこがましさが理解できません.
医師は神ではない.

みなさま
どうか患者さんたちを,追い詰めないでください.

あれがいいこれがいい,そう言いたい気持ちは判ります.

だけど.死と向き合おうとしないといけないわけですから
混乱するんです.

みんなにとっていいことが,その人にとっていいこととは限らないんです.

自分のしていることが,あなたのためをおもっている,という押しつけでないか,今一度考えてみてください.

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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