新型コロナ|日本でデルタ株にN501Sが加わった市中感染が東京医科歯科大学で報告

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2021年8月30日、デルタ株の特徴であるL452Rに加えてN501Sがある変異株が市中感染で見つかったと報じられました。この記事ではN501Sにスポットを当てたいと思いいます。

報道内容

www.excite.co.jp/news/article/Jiji_2021083000595/

新たなデルタ株を初確認=アルファ株の類似変異も―東京医科歯科大
時事通信社2021年8月30日 14:53

東京医科歯科大学医学部付属病院=東京都文京区
東京医科歯科大は30日、流行する新型コロナウイルスのデルタ株について、英国由来のアルファ株に類似した変異を持つ新たなタイプを国内で初めて確認したと発表した。世界では8例の報告があるが、感染力の強さなどは不明という。同大によると、新たなデルタ株は今月、同大付属病院の患者から検出された。デルタ株に特徴的な「L452R」変異に加え、アルファ株に特徴的な「N501Y」に類似した「N501S」変異があった。患者に海外渡航歴はなく、市中感染だったという。同大は、この変異は国内で起きた可能性が極めて高いとみている。

N501Sとは?

デルタ株とはと述べたページに記載していますが、新型コロナウイルスが細胞に感染するときに付着する受容体であるACE2に付着するための足場であるreceptor binding motif(RBM)と呼ばれる場所がreceptor binding domain(RBD)内にあります。N501Sは、501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からS(セリン)に置換してしまったという変異を表しています。ツイッターでは、「ガラケーの機種にしか見えない」というご意見がたくさんあって、びっくりしてしまいました!確かにそうかもしれませんね。

新型コロナウイルスが細胞に感染する部位などの立体構造イメージ

RBD(新型コロナウイルスが受容体であるACE2に結合するための部位)のGly502と、受容体であるACE2のLys355の間には、1つの極性および1つの疎水性相互作用が存在することが判明しています。

Gly502とLys355のペアは、SARS CoVとhACE2の複合体で保存されていることが報告されており、受容体結合の「ホットスポット」と考えられています。(Li, 2008; Wang et al., 2020b)。

また、ACE2のLys353は4つの接触残基(Gly496、Asn501、Gly502、Tyr505)と疎水性の相互作用を形成しており、構成を安定化させる効果がある可能性が示されています。(アミノ酸記号についてはリンク先のページも見てください)

そして、501番目のアスパラギンAsn(N)をチロシンYに変えてしまうN501Yと、501番目のアスパラギンAsnをセリンSに変えてしまうN501Sの違いは何かという事ですが、どちらも接触残基とACE2の結合を安定化させるのですが、in silico解析では安定化の度合いは前者の方がやや強いようです。

デルタ株はもともとRBMである438番-506番めのアミノ酸に二つの変異(L452R、T478K)を持っています。それに加えてアルファ株と同じN501という場所に違うアミノ酸変異が入っているのがこの新株です。

まとめ

新しい変異ウイルスが見つかった、とだけ言われても、混乱している方々が多いでしょう。ラムダ株の説明ページに、α、β、δバリアントの伝達性を高める主な要因は、初期のバリアントのRBDにおけるN501YおよびL452R変異がスパイクタンパク質のACE2への親和性を高めることであると考えられることをご説明してあります。

そして、in silico解析ではN501YとN501Sはどちらも受容体であるACE2との結合力を高めるアミノ酸変異です。

通常の新型コロナウイルスに比較してその結合を増す変異がダブルであるこの新株ですが、その感染力がデルタ株よりも高まるのか、変わらないのか、つまり、この加わったアミノ酸変異による受容体結合力に対する影響が相加効果、相乗効果、もともとのデルタ株と比較して変わらない、などと言ったことはこれから集団や発生頻度を観察していくしかありません。(分子の様子を見ていくと、高まりそうだなということは想像できるのですが。分子の3次構造をコンピューター解析しても生体内で一体何が起こっているのかを再現することが出来かねるので、奥歯にものが挟まった言い方になってしまいます。)

皆様におかれましては、ただの風邪などと決して甘く考えず、しっかりと感染対策をしてお過ごしいただければと存じます。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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