イベルメクチン臨床試験不正を暴いた舞台裏とインドの臨床試験の問題点

COVID-19

研究不正に立ち向かう

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イベルメクチン臨床試験不正を見破ったイギリスの医学生についてガーディアンの報道内容を引用しつつ、イベルメクチン派の現在のよりどころであるインドの臨床試験の問題点をクローズアップします。是非ご覧ください。

以前もイベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に対する有効性を示したスタディの不正を見破ったのは英国の医学生だということとお伝えしました
東京都医師会の尾崎会長が「今こそイベルメクチンを使え」などとしつこく発言していますので、後ほど論破する前段階として、この記事ではロンドンの医学生、ジャック・ローレンスさんのイベルメクチン研究不正(データ捏造)を発見したことをもう少し詳細にお伝えするガーディアンの記事を和訳して御紹介いたしましょう。原文はリンク先でご覧ください

イベルメクチンを用いたCovid治療を支持する大規模な研究が倫理的懸念から中止される

イベルメクチンをコロナウイルス治療薬として支持するプレプリントは広く引用されているが、独立した研究者がデータに重大な矛盾を発見した

イベルメクチンは、寄生虫の治療に用いられる一般的な薬です。イベルメクチンがコヴィドの治療に有効であるとした研究は撤回された。

メリッサ・デイビー
2021年7月15日(木)18.30

新型コロナウイルス感染症の治療のために世界中の右翼の人物が推進している薬の有効性は、この治療法がウイルスに有効であることを示唆する大規模な研究が「倫理的な懸念」のために撤回されたことで、深刻な問題となっている。

エジプト・ベンハ大学のAhmed Elgazzar博士が主導した、イベルメクチン(ミミズやシラミなどの寄生虫に使われる薬)のCovid-19治療における有効性と安全性に関するプレプリント研究は、11月にウェブサイト「Research Square」に掲載されました。

この研究は、無作為化対照試験(RCT)と称しています。無作為化対照試験は、結果に影響を与える交絡因子のリスクが最小限であるため、介入の有効性に関する最も信頼性の高い証拠を提供すると考えられており、医学において重要な研究の一種です。Elgazzar氏は、Benha Medical Journalの編集長であり、編集委員でもある。

この研究では、病院で治療を受けたCovid-19患者のうち、「早期にイベルメクチンを投与された患者は、実質的な回復を報告」し、「イベルメクチン投与群では、実質的な改善と死亡率の低下」が90%に達したことが明らかになりました。

しかし、エルガッツァーの研究が木曜日に「倫理的な懸念のため」リサーチ・スクエア社のウェブサイトから削除されたため、この薬のウイルス治療薬としての有望性は深刻な問題となっている。リサーチ・スクエア社は、その懸念が何であるかを説明していません。

ロンドンの医学生、ジャック・ローレンス氏は、この論文に重大な懸念があることを最初に指摘し、撤回に至りました。彼がエルガッツァーのプレプリントに気づいたのは、授業の課題からでした。彼は、その論文の序論部分がほぼ完全に盗用されていることに気づきました。

著者は、イベルメクチンやCovid-19に関するプレスリリースやウェブサイトの段落全体を類語辞典にかけ、キーワードを変更していたようです。おかしな話ですが、“severe acute respiratory syndrome “を “extreme intense respiratory syndrome “に変えたこともありました」とLawrence氏は述べている。

また、生データが研究プロトコルと明らかに矛盾しているなど、データにも不審な点が見られた。

「著者は、18歳から80歳までの人を対象とした研究を行ったと主張していますが、データセットに含まれる少なくとも3人の患者は18歳未満でした」とLawrence氏は述べています。

「著者は、2020年6月8日から9月20日の間に研究を行ったと主張していますが、生データによると、死亡した患者のほとんどは6月8日以前に入院して死亡しています。また、データのフォーマットがひどく、2020年6月31日という存在しない日付で退院した患者が1人含まれています。”

他にも気になる点がありました。

“Lawrence氏は、「論文の中で著者らは、軽度および中程度のCovid-19に対する標準的な治療群において、100人の患者のうち4人が死亡したと主張しています。”元のデータによると、その数は0で、イベルメクチン治療群と同じでした。重度のCovid-19に対する彼らのイベルメクチン治療群では、著者は2人の患者が死亡したと主張していますが、生データの数字は4人です。”

ローレンスとガーディアンは、エルガッツァーにデータに関する包括的な質問リストを送ったが、回答は得られなかった。また、大学のプレスオフィスも回答しなかった。

ローレンスは、オーストラリアのウーロンゴン大学の慢性疾患疫学者ギデオン・マイヤーオウィッツ・カッツと、スウェーデンのリンネ大学に所属し、科学論文の誤りをチェックするデータアナリスト、ニック・ブラウンに連絡を取り、データと研究結果をより徹底的に分析するための協力を求めた。

ブラウン氏は、データの誤りや矛盾、懸念事項などを発見した包括的な文書を作成し、ガーディアン紙に提供しました。彼の調査によると、著者は明らかに患者間でデータを繰り返していました。

「主な誤りは、少なくとも79人の患者の記録が他の記録の明らかなクローンであることです」とブラウンはガーディアン紙に語っています。「特に、クローンは純粋なコピーでさえないので、無実のエラーとして説明するのは最も困難です。特にクローンは純粋なコピーではないので、無実のエラーとして説明するのは難しいです。

イベルメクチンに関する他の研究もまだ行われています。英国のオックスフォード大学では、新型コロナウイルス感染症の患者にイベルメクチンを投与することで、入院を防げるかどうかを検証する研究を行っている

Elgazzarの研究は、薬が新型コロナウイルス感染症患者を救う可能性を示す最大かつ最も有望な研究の1つであり、薬の有効性を示す証拠として、薬の支持者がしばしば引用してきた。6月にClinical Infectious Diseases誌に掲載された査読付き論文では、イベルメクチンは「COVID-19患者を治療するための実行可能な選択肢ではない」とされているにもかかわらず、である。

Meyerowitz-Katz氏はガーディアン紙に対し、「これは最大のイベルメクチン研究の一つ」であり、データは「完全に捏造されたもの」であると述べています。というのも新型コロナウイルス感染症の治療に対するイベルメクチンの2つのメタアナリシスでは、エルガッツァーの研究が結果に含まれていたからです。メタアナリシスとは、複数の科学的研究の結果を組み合わせて、ある治療法や介入について科学的文献全体がどのような結果を出しているかを判断する統計分析のことです。

「Meyerowitz-Katz氏は、「Elgazzarの研究は非常に大規模で、死亡率が90%減少するという非常にポジティブな結果であるため、イベルメクチンを支持する証拠を大きく歪めることになります。

「この1つの研究を科学文献から取り除くと、突然、Covid-19に対するイベルメクチンの肯定的な無作為化対照試験が非常に少なくなります。実際、この研究だけを取り除くと、肯定的な結果を得たメタアナリシスのほとんどが、その結論を完全に覆すことになります。”

シドニーの医師・研究者であるKyle Sheldrick氏も、独自にこの論文に懸念を示しました。同氏は、論文中の表に記載されているいくつかの標準偏差(データポイントのグループにおけるばらつきの尺度)について、著者が提示した数値は、同じ表に記載されている数値の範囲を考えると「数学的に不可能」であると述べています。

Sheldrick氏は、データの完全性は捏造の可能性を示唆するさらなる証拠であるとし、実際の状況ではこれはほとんど不可能であると指摘しました。また、患者の死亡例やデータが重複していることも指摘した。

イベルメクチンは、主にプレプリント研究のエビデンスに基づいて、ラテンアメリカとインド全域で勢いを増しています。3月には、世界保健機関(WHO)が、十分に設計された臨床試験以外でのイベルメクチンの使用に警告を発しました。

オーストラリアの保守派議員であるクレイグ・ケリー氏は、WHO(世界保健機関)の勧告にもかかわらず、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンをCovid-19の治療に使用することを推進しており、臨床試験ではウイルスによる病気や死亡を防ぐことはできないとされているにもかかわらず、イベルメクチンの使用を推進しています。インドの複数のメディアが先週、ケリー氏がウッタル・プラデシュ州に、同州のアディティアナト州首相をオーストラリアに派遣してイベルメクチンを放出するよう要請したことを記事にしている。この記事が最初に掲載された後、ケリー氏はガーディアン紙に連絡を取り、ヒドロキシクロロキンが効いたという証拠はないという意見に同意しないと述べ、自分の見解を支持すると述べました。

ローレンスは、大学での簡単な課題から始まったことが、明らかな科学的不正行為の包括的な調査につながったと述べ、「イベルメクチンの誇大宣伝が行われている…右翼的な人物、反ワクチン主義者、明らかな陰謀論者が混在している」とした上で、次のように述べた。

「科学は自己修正する傾向にありますが、エルガッツァー論文のような問題だらけの研究を7ヶ月間も放置できるようなシステムは明らかにおかしい」と述べています。

「何千人もの高度な教育を受けた科学者、医師、薬剤師、そして少なくとも4つの主要な医薬品規制当局が、ネオンサインが点滅するほど明らかな不正を見逃していたのです。壮大な規模で進行中の世界的な健康危機の中でこのようなことが起こったことは、より一層恐ろしいことです。”

この記事は2021年7月19日に修正され、ヒドロキシクロロキンに関する世界保健機関(WHO)のアドバイスについて言及しています。

世界のイベルメクチン派が今飛びついているのはインドの臨床試験|問題点を指摘

インド
www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.02.18.21252037v1

こちらは2月23日にプレプリントとして掲載されていますが、6か月たった今もどこにも査読を受けて掲載されている様子がありません。

プレプリント論文サーバーであるmedrxivの当該ページには一つコメントがあります。

Eric O’Sogood
@ericosogood
1. 試験を早期に中止したため、当初の検出力計算に十分な被験者を登録できなかった。2. 現段階ではイベルメクチンの単回投与は推奨されていない。3. また、血栓予防以外の抗凝固剤についての議論は見られません。4. ivmは食事をすると吸収率が約4倍になるが、空腹時に投与したのか、食事をしたのか?5. 5. 著者は、これがIVM対プラセボの最初の試験であると書いていますが、すでに5件の試験が行われています

そうなのですよ。イベルメクチンを投与したことのある医師ならば知っていることとして、空腹時かそうでないかで吸収率が大幅に異なるため、イベルメクチンの臨床試験を設計(デザイン)するときにはかならず、「空腹時投与」なのか「食後」なのかを入れます。そうじゃないと正しいデータが取れません。勝手に空腹時とか食後とかを被験者が変更できるデザインであるため、これは査読の段階で編集者会議でもめるのではないかと思います。もしもこのまま掲載したらエディター(編集者)に世界中からレターが届くことでしょう。

査読が通るかどうかに注目が集まっていると思います。

インドのイベルメクチン臨床試験に対する日本医師会理事兼東京都医師会理事長の尾崎さんの発言

東京都医師会長の尾崎さんは、これを「論文を発表したのは世界でも第一級の研究グループですから、非常に信頼性が高いものです」と評価していますが、やっぱ臨床試験を読み解く能力が高くなさそうですね。もう草しかはえないって感じでしょうか?

あの年代は臨床試験なんてやらなくても、俺がこういえばそうなんだってノリの人が多いですからね。手強いですよ。

医学生研修医専攻医諸君ならびに専門医諸君はこれとかあれとかそれとかいろんなイベルメクチン派の医師たちをビッグな反面教師として是非しっかりと臨床試験を読み解く能力を身に着け、患者に還元していいエビデンスレベルなのかということを常に気にしてください。決して真似はしないように。

そして国民の皆さんは是非、わたしの記事を読んで理解を深め、本質を見抜く能力を身に着け、医師に騙されないようにしてください。
ちなみに、わたしが医師になったのは医師に騙されないようにしようという動機からでした。

まとめ

この記事では英国の医学生ジャック・ローレンスさんのイベルメクチン研究不正(データ捏造)を発見したことを伝えるガーディアン紙の報道内容を引用しながら、インドの臨床試験のプレプリント論文にも言及しました。

東京都医師会長の連日の発言にウンザリしている東京都医師会の医師たちも大勢います。

医師会改革も必要に感じていますが、あれは白い巨塔よりも断然険しいので、わたしはわたしの記事に目を通してくれる若い医師たちや心ある医師たち、そして国民の皆さまに対する啓もう活動を通じて、医師会というものの在り方を変えていきたいと思います。

小さい見えない力は何より強いものです。

是非、今後とも当サイトにご注目下さいませ。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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