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アメリカの大学調査、BCGワクチンで新型コロナウイルスの死亡率低下と発表!「BCGで死亡率に5.8倍の差」
アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームがBCGワクチンについて、新型コロナウイルスの死亡率を大幅に抑制する効果があると発表しました。
これは査読前の調査結果ですが、研究チームは「コロナウイルスの死亡率が100年前の結核BCGワクチンを使用している国では5.8倍低くなる」との調査報告をまとめ、BCGワクチンに強い効果があると言及。
BCGワクチンにも複数の種類があり、日本株と旧ソ連株を使用している国だと顕著に効果が出ているとしています。
こんな風に報道されると,本当のことかな?って信じちゃいますよね.
こういうのに振り回されないように,今日は,私と一緒に 『臨床研究』 の種類についてお勉強しましょう.
臨床研究の種類とは?
介入の有無:ある=実験研究(分析的研究) なし=観察研究(記述的研究,疫学研究)
時間軸:アウトカムと要因の測定タイミングが同時=横断研究, 非同時=縦断研究
で大きく分類します.
1.観察研究と実験研究
観察研究
疫学研究 と呼ばれることがあります.
観察研究:比較対象 あり=分析的研究, なし=記述的研究=症例報告
分析的研究:アウトカムと要因の測定のタイミング 同時=横断研究,2回以上=縦断研究
縦断研究:観察の時間軸の向き 要因→結果=コホート研究,結果→要因=症例対照研究
このように分類されます.
横断研究とは?
横断研究はある集団のある一時点での疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を同時に調査し,関連を明らかにするものです.
調査対象について1回だけ(1時点だけ)で調査を行うデザインです.
特徴
ある疾患の有病率や,健康問題の保有率を把握するために行います.
時間経過の要素が含まれていないため,因果関係を検討するのには適さず,せいぜい関連性の議論しかできません.
実験研究
介入研究や臨床試験と呼ばれます.
治療法や予防法に関して介入を行うタイプの試験です.
www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000166072.pdf
介入とは,研究目的で、人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防、診断又は治療のための投薬、検査等を含む。)の有無又は程度を制御する行為(通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するものを含む。)をいう。
「通常の診療を超える医療行為」とは、医薬品医療機器等法に基づく承認等を受けていない医薬品(体外診断用医薬品を含む。)又は医療機器(以下「未承認医薬品・医療機器」という。)の使用、既承認医薬品・医療機器の承認等の範囲(効能・効果、用法・用量等)を超える使用、その他新規の医療技術による医療行為を指す。また、既に医療保険の適用となっているなど、医学的な妥当性が認められて一般に広く行われている場合には、「通常の診療を超える医療行為」に含まれないものと判断してよい。なお、「介入」に該当するのは、「通常の診療を超える医療行為であって、研究目的で実施するもの」であり、通常の診療を超える医療行為のみをもって直ちに「介入」とする趣旨ではない。
「介入」を行うことが必ずしも「侵襲」を伴うとは限らない。例えば、禁煙指導、食事
療法等の新たな方法を実施して従来の方法との差異を検証する割付けを行う等、方法等が
異なるケアの効果等を比較・検証するため、前向き(プロスペクティブ)に異なるケアを
実施するような場合は、通常、「侵襲」を伴わないが、「介入」には該当する。
2.研究目的と研究デザイン
記述的研究 | 分析的研究(横断研究) | コホート研究 | ケース・コントロール研究 | 介入研究 | |
---|---|---|---|---|---|
疾患や診療の実態を調べる | 適 | ||||
要因とアウトカムの関係を調べる | 適 | 最適 | 適 | ||
治療・予防法の効果を調べる | 適 | 最適 |
記述的研究の例
・疾患Aに関する人口規模別の年齢調整死亡率
・症例集積研究(Case series study):ある治療等を複数の患者さんに用いて治療経過や結果を観察して報告したもの.対象者数は多くても比較対照を設けていないことが多く,症状の改善や副作用の発現などがその治療等によるものかどうかを明らかではありません.
・症例報告(Case report)
比較的短時間で研究計画を作成・実施することができますが,アウトカムを比較するための対照が研究計画の時点で設定されていないため,「要因とアウトカムとの関係」や「治療・予防法の効果」などの『要因とアウトカムの因果関係』を調べることはできません。
コホート研究
「要因とアウトカムとの因果関係を調べる」研究に最適な研究デザイン.
要因を先に測定し,その後にアウトカムを測定するので,原因―結果の時間的関係が明らかとなるからです.
また,例えば、飲酒者と非飲酒者では飲酒者の肺癌発生率が高くなるのですが,これは結果に影響を与える因子である喫煙の影響によるもので、飲酒者に喫煙者が多いことによるものです.
こうしたときは,喫煙の有無で分けてから飲酒者と非飲酒者の肺癌発生率を比べると違いは無くなり,飲酒は肺癌の発症と関連の無いことが分かることとなります.
こうして交絡因子を研究の開始時に測定しておくことが可能な点も大きなメリットです.
アウトカムの発生がまれな場合には多くの対象者が必要となったり,一定期間(アウトカムの発生に時間がかかる場合は長期間)対象者を丹念に追跡したりしてなるべく脱落が生じないしないといけないので,多くの時間や費用が必要となります.
ケース・コントロール研究
時間と費用を掛けることが難しい状況で,「要因とアウトカムとの因果関係を調べる」タイプの研究を実施したい場合.
最初に,アウトカムが発生した人をケースとして定義し,次いでケースとの比較が可能なコントロールを探して時間軸を過去に向けて要因を調べます.
コート研究に比べて,時間面・費用面でアドバンテージがありますが,コントロールの選択が非常に難しくなります.
研究の対象者を決める時点で生じるバイアスを選択バイアスというのですが,研究を行う場所、対象者を集める方法、研究参加後の脱落など、様々な場面で生じます.
研究を行う場所における選択バイアスとして,例えば高齢者を対象に健康に関する調査を行うとき,対象者の募集をどのような医療機関で行うかにより対象者の基礎疾患や重症度が異なるため,同じ年齢の高齢者であっても対象集団の特性が異なりますよね.
対象者を集める方法における選択バイアスとしては,たとえばツイッターで安倍政権の支持率などを調査している人たちがいるのですが,それって,まずはインターネットが使えて,しかも,その人をフォローしている人たちってことで,かなりバイアスがかかってますよね.このように,対象者を募集する時点で生じる偏りを選択バイアスといいます.
選択バイアスがあると当該要因の曝露群と非曝露群に差がないにもかかわらず差がでたり、逆に差があるのにないとでたりするので適切な比較が困難になるということが問題です.
ケース・コントロール研究ではこうした選択バイアスが生じる可能性が高く,また過去にさかのぼって行うため,要因に関する必要な記録がなかったり,対象者に過去の出来事を尋ねる場合には,思い出し方によるバイアスが生じることもあります.
横断研究
特定の地域住民の集団をある時点で調べてその特徴や治療の実施状況,有病率などを比較し,疾患の原因や治療効果などを明らかにします.複数の集団を比較して検討することを分析的研究といい,ある時点で多くの人を対象に1度だけ調査を行うことを横断研究といいます。
一般に、分析的横断研究は、病気の原因や治療の効果について仮説を立て、その仮説を検証することを目的に実施されます.
「要因と考えられる因子」と「アウトカムと考えられる因子」を同時に測定することで,比較的短時間かつ少ない費用で「要因とアウトカムとの関係を調べる」研究の実施が可能とあるのですが,要因とアウトカムの間に時間的な関係性がないため,因果関係を検討することはできません.このため関連性があるのかないのかという議論しかできないのです。
介入研究
3つ目の「治療・予防法の効果を調べる」研究として,最も適切な研究デザインになります。
介入とは何かについては上のほうで述べています.
介入を割り付けられた対象者を時間軸を前向き,つまり未来にむかって観察し,アウトカムを群間で比較するものです.
介入の割り付けの方法として最も適切なのはランダム,つまり無作為にされる割付で,ランダム化を用いた介入研究をRCT(Randomized controlled trial)と呼びます。
適切に計画・実施されたRCTは,治療・予防法の効果に対する強力なエビデンスとなります.
倫理的でないなどの理由でRCTの実施自体が困難な場合も多々あります.
3.科学的根拠に基づく医療エビデンス・ベースド・メディシンの実際
エビデンスレベルとは?
これは,もともとつくっていたページがありますから,そっちに飛んで見てください.
minerva-clinic.or.jp/nipt/aboutnipt/chapter5/level-of-evidence/
EBMの5つのステップ
step 1:疑問(問題)の定式化
step 2:情報収集
step 3:情報の批判的吟味
step 4:情報の患者への適用
step 5:step 1~step 4のフィードバック
step 1:疑問(問題)の定式化
P:Patient どんな患者が
I:Intervention(E:Exposure) ある治療/検査をするのは
C:Comparison 別の治療/検査と比べて
O:Outcome どうなるか
たとえば
高血圧患者が
抗凝固薬を飲むのは
飲まない場合と比べて
脳卒中が防げるか
って感じですね.
step 2:情報収集
いろんなインターネットツールを使って情報収集をします.
step 3:情報の批判的吟味
得られた情報が本当に正しいものか,信ずるに足るかを評価します.
臨床研究論文の結論で統計学的有意差をもって優位だとか書かれていても,その結果を鵜呑みにしてはいけません.
臨床研究は正しい手法で行われないと,間違った結論を導くことが結構あります.
情報の批判的吟味を行うときには,その臨床研究の手法がそもそも正しかったかどうかを検討しなければなりません.
これを内的妥当性(研究内部の妥当性)の評価と呼びます.
そして,その効果はどれ位なのか,どういう患者に対して行われたものか,その研究や論文における限界や問題点は何かを考えることも重要なのです.
例えば,日本のがんの分野の臨床試験で有意差をもって良い治療方法だという結論が出てもので,海外での追試で認められなかったものはたくさんあります.
step 4:情報の患者への適用
エビデンスがあれば全てそれを患者に使わなくてはいけない,というのは間違いです.
たとえば,若年者ばかりで行った臨床試験を,薬剤の代謝能力が違う高齢者にいきなり適応することは不適切ですよね?
step 2,step 3で得られた情報の元となった患者集団と,目の前の患者の背景がどれだけ似ているかを検討することを,外的妥当性(適用可能性)の評価と呼びます.
治療法や検査法がどのように優れているかというだけではなく,患者の考えや思いがどういうものなのかということも重要となります.
有効な治療法がありながら,敢えて行わない選択肢もあるわけで,これらを患者と話し合う中で決めていくのが大原則となります.
抗がん剤の専門医の中には,この大原則を忘れているのか,投与することが至上命題みたいな医者がごろごろいるので,わたしはそういう医者は大変苦手です.
step 5:step 1~step 4のフィードバック
こうやってくるくるとサイクルを回して行うのがEBMです.
最近の医学部では必ず教えますが,われわれが医者になったころにはなかったですね.
カミチャマも教わってないのでしょうが.
わたしはがんプロ大学院で嫌というほどこれ,やらされたので(笑)
カミチャマとはだいぶ違うかもね.
というわけでBCGとCOVID-19の関係は?
関係があるのかないのか,国別に見たものがありましたね.
それって,横断的研究ですよね?
異なる集団を比べていそうなので,分析的横断研究ですよね?
というわけで.
アウトカム(COVID-19に罹患しても軽症で済む)と要因(日本株のBCG接種)の間の『関連性』は議論できても
因果関係は議論できいない研究デザインなんです.
それでは,この研究デザインで,BCG接種という『介入』に関するエビデンスレベルが付くのか?ということですが
これに関しては,『つかない』ということがわかりますよね?
オーストラリアで4000人規模で医療者を対象に臨床試験がはじまるようですので,その結果を待ちましょう.
このように,医師が患者さんに治療として還元するには,たくさんの臨床試験(人体実験)がなされて,その有効性や優越性が統計学的に証明されてからになります.
もちろん,新興感染症のパンデミックに,そんな悠長なことやれるか,という意見もあるでしょう.
しかし.
医師はどんな時でもサイエンティストである必要があります.
なぜなら,我々が提供する医療は,医学というサイエンスに依拠しているからです.
絶対やめてもらいたいこと
皆さんのなかには,医療機関にいって,BCGやってくれという人たちがいるようで,困惑する医師たちの声が聞こえてきます.
テレビの報道などで踊らされている人々に説明しなければならないって,医師たちからすると理不尽で嫌なものです.
是非,おやめください.
どんな学会かよく知らないですが,日本ワクチン学会の声明です.
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