新型コロナウイルスの細胞感染の足場であるACE2受容体の体内分布

COVID-19

新型コロナウイルスのイメージ

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新型コロナウイルスはACE2受容体に結合して感染するすることがわかっていますが、実際にACE2受容体は生体内のどの組織に発現しているのでしょうか?つまり、どの部位から人体に感染するのでしょうか?という疑問にお答えすべく調べてみたのでお伝えします。

新型コロナウイルスが感染する足場であるACE2受容体は副鼻腔で高発現をしている

Sourabh Soniらがjournals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0247510に発表した論文からご紹介します。
本文中の数字はリファレンス論文の番号なので原文サイトでご確認ください。
また、論文自体は長いのと、実験手法の話が多いので、わかりやすく抜粋しています。疑問のあるかたは必ず原文サイトで確認してください。

概要

アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の機能的受容体であると考えられている。しかし、ヒトの呼吸器におけるACE2タンパク質の存在と分布については、現在のところ議論の余地がある。我々は、げっ歯類および非ヒト霊長類(NHP)モデルにおいて、年齢と肺損傷がACE2タンパク質の発現に及ぼす影響を調べた。また、コロナウイルス19感染症(COVID-19)の有無にかかわらず、ヒト組織におけるACE2の発現を調べた。ACE2の発現は、早産児では非常に低いレベルで検出されたが、満期産児および成人のNHP肺ホモジネートでは検出されなかった。このようなACE2の発現パターンは、膜貫通型プロテアーゼセリンタイプ2(TMPRSS2)の発現パターンとは対照的で、早産のNHP肺に比べて、早産の新生児および成人のNHP肺では有意に増加していた。たばこの煙による気道疾患や気管支肺異形成のNHP肺では、ACE2の発現は検出されなかった。ネズミの肺では、基礎的なACE2免疫反応は見られなかったが、高酸素、細菌感染、アレルゲン暴露に反応して、気管支上皮細胞に新たなACE2が発現した。ヒトの標本では、副鼻腔標本では繊毛上皮細胞にしっかりとしたACE2免疫反応が検出されたが、対照肺ではまれにタイプ2肺胞上皮細胞にのみACE2の発現が検出された。COVID-19肺炎患者の剖検標本では、気管内の稀な繊毛上皮細胞および内皮細胞にACE2が検出されたが、肺では検出されなかった。F344/Nラットの鼻粘膜と肺の標本では、ACE2の発現がしっかりと見られ、これはヒトの副鼻腔の標本におけるACE2の発現パターンを正に再現していた。このように、ACE2タンパク質の発現は、ヒトでは上気道と下気道の間に大きな勾配を示し、肺では少ないことがわかった。このようなACE2の発現パターンは、副鼻腔上皮がSARS-CoV-2の主な侵入口であるという考えを支持するものであるが、COVID-19肺炎におけるSARS-CoV-2の病態や細胞の標的については、さらなる疑問を投げかけている。

~中略~

結果(抜粋)

  • ACE2タンパク質は、ヒト肺の上気道に多く、下気道には少なかった。
  • ACE2が繊毛上皮細胞に局在していることが確認された。
  • 一方、組織学的に正常な肺の標本では、ACE2の発現はすべての細胞タイプでほとんど見られなかった。
  • ヒト副鼻腔切片では、繊毛上皮細胞と粘膜下腺上皮細胞にACE2の免疫反応が見られる。
  • COVID-19肺炎では、気管と心筋にACE2が検出されるが、肺細胞には検出されない。
  • COVID-19患者5名の剖検標本では、肺のどの細胞にもACE2の発現が認められなかったが、気管のまれな上皮細胞や微小血管内皮細胞には存在していた。
  • SARS-CoV-2のもう一つの主要な標的臓器である心臓でもACE2の発現を調べたところ、コントロールとCOVID-19の両方の検体で、心筋の微小血管系に関連してACE2の免疫反応が検出された。
  • 微小血管内皮細胞の一部でACE2とCD31が共局在することが確認された。
  • 高酸素曝露や細菌性肺炎を起こしたマウスの肺では、ACE2の発現が誘導される。

考察

結論として、今回得られた知見は、上気道の繊毛上皮に高レベルのACE2タンパク質が局在する一方で、成体NHPおよびヒトの肺では、構成的なACE2の発現はほとんど見られず、ほとんどの場合、IHCおよびイムノブロッティングの検出レベル以下であることを示している。傷害を受けたNHPの肺やCOVID-19を投与したヒトの肺では、ACE2の発現が誘導されている証拠は見つからなかった。これらのデータは、副鼻腔粘膜におけるACE2がSARS-CoV-2の機能的受容体として重要な役割を果たしていることを明確に示しているが、肺におけるACE2の発現パターンが限られていることは、COVID-19肺炎における別のウイルス受容体や肺損傷の別のメカニズムについて疑問を投げかける難問である。

脳領域のACE2受容体の発現

21の異なる脳領域、7つの胎児組織、8つの対照群を含む85のヒト組織におけるACE2の発現を分析した研究からは、呼吸器系、消化器系、腎分泌系、生殖器系の細胞で強いACE2の発現が見られたことについては、これまでの論文と同じであったが、脳では扁桃体、大脳皮質、脳幹でも高いACE2の発現が見られた。ACE2の発現レベルが最も高かったのは、脳の延髄呼吸中枢を含むヒト脳幹の橋と延髄であり、CoV-19患者の多くが重度の呼吸困難に陥りやすいことの一因と考えられる。

新型コロナウイルスの後遺障害として記憶障害が挙げられているが、扁桃体は情動反応の処理と記憶において主要な役割を果たしているためと推察される。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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