妊娠中に新型コロナの予防接種(ワクチン)を受けて大丈夫でしょうか?

COVID-19

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気分不良

新型コロナウイルス感染症COVID-19の予防のために多数のワクチンが評価されていますが、妊娠中・授乳中の人はこれらの臨床試験から除外されていますので、妊娠・授乳中の女性にワクチンを打っていいのかというデーターはありません。
今日、実は、医療従事者である患者さんから、「医療従事者なのでコロナワクチン最初に受けるべき人たちに入るのですが妊婦なのに大丈夫ですか?子供に受け継がれて生殖能力に影響が出るなんて情報もあります」という質問を受けました。このため、質問にお答えするページをおつくりしますとお約束したので実行します。
この記事ではまず、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)に対するワクチンの開発状況や特徴などについてお伝えした後、妊婦さんたちへの注意事項をまとめてみたいと思います。

新型コロナウイルスワクチンの種類

以下のようなワクチンが開発されています。

  1. mRNAワクチン
  2. アデノウイルスベクターワクチン
  3. 組換えタンパクワクチン
  4. DNAワクチン
  5. 不活化ウイルスワクチン

それでは、順番に説明していきましょう。

mRNAワクチン

mRNAワクチンの利点

mRNAは、ゲノム(DNA)への挿入変異リスクがないため安全性が高くなっています。mRNAは DNA→RNA→タンパク(これをセントラルドグマと言います)の下流にあるため、RNAからDNAに組み込まれることはない(逆転写酵素が必要です)ため、安全性は高いと考えられています。
DNAからRNAをつくることを転写、RNAからDNAを作ることを逆転写、RNAからタンパクをつくることを翻訳といいます。

mRNAワクチンの欠点

RNAは非常に壊れやすくて不安定

このため、mRNAを安定に保持し、標的細胞へ輸送するDDS (Drug Delivery System)技術が必要となります。

DDSとは?
  1. 脂質ナノ粒子(LNP)
  2. :直径10nmから1000nmの脂質を主成分とする粒子。核酸医薬などを内包させる。主原料は、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド、脂肪酸、ステロイドなどの生体適合性がある脂質と界面活性剤。固体を内包可能。

  3. ポリマーナノ粒子
  4. :有機溶媒を用いて製造するため、途中で細胞毒性を取り除く必要があるなど製造過程が煩雑。

  5. リポソーム
  6. :親水性物質を内包できるが、内包できるサイズが小さい。

ファイザー社

脂質ナノ粒子に包まれたSARS-CoV-2のS蛋白質(スパイクタンパク、外側のとげとげ部分)のレセプター結合部位(RBD;receptor binding domain)をコードするmRNAワクチンを研究開発。
RBDに対するIgG抗体の量の上昇、SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生、およびT細胞の応答が認められた。ワクチン投与後に頭痛、倦怠感、寒気といった症状を訴える人もいたが、重篤な副反応は認められていない。

モデルナ(武田が販売)

SARS-CoV-2のS蛋白質をコードするmRNAを脂質ナノ粒子に内包。

アデノウイルスベクターワクチン

アデノウイルスとは二重鎖直鎖状DNAウイルスで、カプシドは直径約80nmの正20面体の球形粒子をしており、エンベロープは持ちません。
ヒトアデノウイルスEには転写単位が17個あり、それぞれが1から8個のタンパク遺伝子を含んでいる。またそれぞれの転写単位から選択的スプライシングによって複数の異なったmRNAが生じる場合もある。
E1A, E1B, E2A, E2B, E3, E4の6つの転写単位はウイルスの増殖サイクルの初期に順次転写される。これらの遺伝子から翻訳されたタンパクは、主にウイルスゲノムの複製や転写の制御と、宿主の感染応答の抑制に関与する。

ベクターとは

外来遺伝物質を別の細胞に人為的に運ぶために利用されるDNAまたはRNA分子の総称。任意の遺伝子やDNA、RNA配列を導入先の細胞内で増幅・維持・導入させるため、遺伝子組換え技術に用いられる。
アデノウイルスベクターが一般的に用いられます。
ウイルスの増殖に必要なE1領域を欠失させ代わりに外来の遺伝子を組み込んだアデノウイルスは、遺伝子を組み込むベクターとして用いられます。=感染はするが増殖はしないので目的の場所に対する“運び屋”として機能します。

Gelsinger事件 (1999)


ペンシルバニア大学でOTC(体に必要な酵素です)欠損症の遺伝子治療としてアデノウイルスベクター
が投与された直後に患者(Gelsinger18歳)がSIRS全身性炎症症候群により死亡。研究者らは重篤な有害事象を予見できたにもかかわらず、大学に治験で多額の報酬が入る事、研究者らは会社を設立しており、M&Aにより多額の金銭を得ることが可能で、大学の倫理審査委員会が全く機能しなかったこと、 動物実験ですでに重篤な有害事象があったことを隠蔽したことなどが露呈し、医療倫理的な大事件として世界に衝撃を与えた。
研究者のジェイムズ・ウィルソン氏はFDAが以降、どのような臨床試験や治験に参加することも生涯認めないという扱い。
世界の医療倫理問題の原点であるゲルジンガ―事件は今でもアデノウイルスベクターに対する医療界の特別な警戒心を誘発します。

アストラゼネカ

アデノウイルス蛋白質の合成を誘導する初期遺伝子であるE1領域をSARS-CoV-2のSタンパク(スパイクタンパク)をコードする遺伝子に置き換えたもの。
感染した細胞でSタンパクが作られ、これに対する免疫を誘導する。

組換えタンパクワクチン

抗原となるタンパクを遺伝子組換え技術によって作り出し、主に大腸菌、酵母、動物細胞を利用して製造。
様々な抗原タンパクに対応可能。
一般的に免疫原性が低いことが多いので、上げるためにアジュバント(ブースターのようなものと考えていただいたらいいと思います)を添加する必要がある。
有害事象がでるのは、主にアジュバントによるもの。

ノババックス(武田が製造販売)

SARS-CoV-2のS蛋白質(外側のとげとげちゃん)精製し、内包したナノ粒子を、アジュバントとともに接種したところ、SARS-CoV-2のS蛋白質に対するIgG抗体の増加、中和抗体の産生を認めた。

DNAワクチン

抗原蛋白質をコードするDNAを投与することによって、体内でmRNA→抗原タンパクを作らせ、その抗原に対する免疫を誘導する。

アンジェス

不活化ウイルスワクチン

従来型ワクチン
ウイルス自体を不活化して作製。
数多くの感染症において実績あり。
SARS-CoV-2ではVero細胞などの培養細胞を用いて増殖させたウイルスを不活化し、精製したものを不活化ワクチンとして用いる。
各ウイルスより効率的なウイルス産生の条件設定(例:細胞や培地など)や不活化方法の検討などが必要。
開発に時間がかかる。

中国製のワクチンが該当します

臨床的に利用可能になる最初のワクチン

臨床的に利用可能になる最初のワクチンは、mRNAまたはウイルスタンパクを利用しており、感染力のあるウイルス粒子を含んでいないものになります。このため、ワクチン接種の要件をみたして接種を希望する人のために、COVID-19 mRNAワクチンを妊娠中や授乳中であることだけを理由に制限しないことが推奨されています。

インフルエンザなどのほかの予防接種を受けたあとは14日以上あけてから新型コロナウイルスワクチンを受けましょう。やむを得ない場合はこの限りではありません。

妊婦のための新型コロナウイルスワクチン接種の注意点

米国のCDCと独立した予防接種実施諮問委員会(ACIP)は、現時点では、ACIPは新型コロナウイルスワクチン接種プログラムがはじまった最初の数ヶ月間は、特定のグループ(医療従事者、次いで他の第一線で働く必要不可欠な労働者)にワクチンを接種することを推奨しています。妊娠中の方で、新型コロナウイルスワクチンの接種を推奨されている集団の方は、接種をするかどうか選択することができます。

妊娠中の人はCOVID-19による重症化のリスクが高くなります。

今までに観察研究されたことをまとめると、新型コロナウイルス感染症COVID-19の妊婦は、妊娠していない同年齢の女性と比べて、ICUへの入院、機械的人工呼吸、死亡を含む重篤な状態になるリスクが高くなることがわかっています。COVID-19を持つ妊婦は、COVID-19を持たない妊婦と比較して、早産などの有害な妊娠転帰のリスクが高くなる可能性もあるため、予防が求められます。

妊娠中の人に対するCOVID-19ワクチンの安全性に関するデータは限られています。

臨床試験や追加試験で知見が得られるまでは、妊娠中に投与されるmRNAワクチンを含むCOVID-19ワクチンの安全性については、限られたデータしか得られていません。

現在、動物実験からはは、限られたデータしか得られていませんが、妊娠前または妊娠中にモデルナCOVID-19ワクチンを投与されたラットでは、安全性の懸念は示されていません。
このため、妊娠中の人を対象とした臨床試験が計画されています。

mRNAワクチンはCOVID-19の原因となる生ウイルスを含まないため、COVID-19に罹患することはできません。さらに、mRNAワクチンは、mRNAが細胞の核に入らないため、人のDNAと相互作用することはありません。細胞はmRNAを素早く分解します。mRNAワクチンのこうした性状から妊娠中の人に特別なリスクをもたらす可能性は低いと考えられています
また、供給量が限られているため、CDCは現時点では、特定のグループはCOVID-19の原因となるウイルスへの曝露やCOVID-19の重症化のリスクが高まるため、ワクチンを最初に接種することが推奨されています。

ワクチン接種を受けることは、妊娠中の人にとって個人的な選択です。

ワクチンの接種は自らの意思で決めるべきであり、うける、うけないを強制されたりすべきではありません。

ワクチン接種後もマスクなどの感染予防は必要です

接種を受けることを決めた妊婦は、ワクチン接種後もCOVID-19の流行を防ぐために、現行の感染予防ガイドラインに従う必要があります。

マスクの着用
他の人から2メートル以上離れていること
人混みを避ける
石鹸と水で20秒間手を洗うか、60%以上のアルコールを含む手指消毒剤を使用。

ワクチンの副作用

副作用は、2種類のCOVID-19ワクチンのいずれかを受けた後、特に2回目の接種後に起こる場合があります。副作用は、妊婦かそうでないかで違いはないと考えられています。ワクチン接種後に発熱した妊娠中の人は、発熱が妊娠に悪影響を及ぼすことがあるため、アセトアミノフェンを服用するように指導されることがあります。アセトアミノフェンは妊婦の発熱にも安全性が高いので我慢する必要はありません、

まとめ

妊娠中に新型コロナウイルスに感染してもほとんどの妊婦さんは無症状から軽症ですので、過剰に怖がらず、しかし甘く見ず、しっかりとマスクと手あらいを徹底してソーシャルディスタンスをとり、かからないように頑張りましょう。
新型コロナウイルスワクチン予防接種を妊婦さんが受けることに特段問題はありませんし、障害が次世代に引き継がれるなんてことはありません。今回、臨床応用されるのはmRNAワクチンですので、すぐに不活化されることが問題になるくらいですから、お母さんの接種がお子さんに影響することはありません。DDSに不妊になる成分が含まれている、なんていうのは陰謀論ですのでご安心ください。(笑)

ミネルバクリニックでは、出生前にあかちゃんの健康状態をみることができる「出生前診断」を行っており、また、院長が総合内科専門医であり、がん薬物療法専門医と臨床遺伝専門医の資格ももっていることから、「コロナ大丈夫?」とか、「妊娠中に乳がんになったんだけど」とか出生前診断に特化した医師とは一味違う幅広い皆様の不安におこたえしております。

妊娠出産に関してご不安なみなさま、遠慮なく是非ご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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