「long-COVID」とは、COVID後の状態、COVID後の症候群、SARS-CoV-2感染後の急性後遺症(PASC)とも呼ばれ、一般的にCOVID-19の急性疾患中または急性疾患後に発症し、4週間以上継続し、コロナ感染既往以外の原因では説明できない症状を指します。long-COVIDがCOVID-19に特有の新しい症候群なのか、それとも類似の病気からの回復と重なるのかは、まだ分かっていません。
急性COVID-19後の持続的な身体症状は一般的で、典型的には疲労、呼吸困難、胸痛、および咳が含まれる。また、頭痛、関節痛、不眠、不安感、認知機能障害、筋痛、下痢なども報告されています。症状が消失するまでの期間は、主に病前の危険因子、急性疾患の重症度、初期症状の範囲に依存します。しかし、入院経験のない重症度の低い患者であっても、症状が長引くことがよくあります。
ちなみに、通常の肺炎や気管支炎のあとも半年くらいは気道の過敏性が続いたり、肺炎をおこした範囲には線維化が起こるため、呼吸器系の症状が長引くことは普通です。
COVIDになってから予想される回復の経過
症状が消失するまでの時間は、急性疾患の重症度や患者が経験する症状の範囲だけでなく、病前の危険因子も大きくかかわります。
しかし、COVIDが流行した初期には、軽症の患者では回復までの期間は2週間程度と短く、重症の患者では2~3か月以上にわたり、長いことが想定されていましたが、現実としては症状の消失までの期間には大きなばらつきがあります。
入院が必要な患者、既往症のある高齢の患者、細菌性肺炎や静脈血栓塞栓症といった医学的合併症のある患者、入院が長引いた患者では、回復過程が長くなることが報告されてきましたが、症例報告が積みあがってくると、入院を必要としなかった重症度の低い患者であっても、長期にわたる持続的な症状を訴えていることがしばしばあると報告されてきています。
入院が必要だったCOVID-19患者のlong-COVID(COVID後遺症)
イタリアの研究によると、COVID-19入院後の患者の評価は、COVID-19の最初の症状が発現してから平均60.3(SD、13.6)日後に行われ、評価の時点で、COVID-19に関連する症状がまったくなかったのは18人(12.6%)のみで、32%は1~2の症状、55%は3つ以上の症状を呈していて、QOL(生活の質)の悪化は、44.1%の患者に認められ、高い割合の人が、疲労感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛、(27.3%)、胸痛(21.7%)を訴えていたと報告されています。COVID-19で入院したことのあるイタリア人患者143名のうち、発症後60日目に完全に症状がなかったのはわずか13%でした。
COVID-19の急性症状で入院した患者の約5~9割というかなりの割合が、退院後少なくとも2ヶ月、最大12ヶ月わたって症状を経験しているというデータもあります。
武漢で実施されたCOVID-19で過去に入院した患者約1,700名を対象とした観察研究では、6ヵ月後に大多数の患者が1つ以上の症状を継続していました。疲労や筋力低下(63%)、睡眠障害(26%)、不安や抑うつ(23%)などが最もよく報告された持続的な症状でした。
米国の病院で急性COVID-19を発症した1600人の患者の観察研究では、退院後60日目に33%が持続する症状を報告し、19%が新たな症状や悪化した症状を報告しました。最も一般的な症状は、階段昇降時の呼吸困難(24%)、息切れ・胸部圧迫感(17%)、咳(15%)、味覚・嗅覚の喪失(13%)などであったと報告されています。
入院が必要なかったCOVID-19患者のlong-COVID(COVID後遺症)
軽症のCOVID-19であるはずの外来患者であっても、かなりの割合が、急性のCOVID疾患後、数ヶ月間は症状を経験することを示唆するデータがあります。
COVID-19の外来患者292名を対象とした電話調査では、3分の1が3週間後までにベースラインの健康状態に戻っていなかった。若年層の患者は、高齢層の患者に比べて症状が残る可能性が低かった(18~34歳では26%、50歳以上では47%)。さらに、すべての年齢層において、併存する医学的疾患の数の増加が病気の長期化と関連していました。また、若くて健康な患者は、軽度の疾患であれば早期に回復するのに対し、複数の合併症を持つ患者は回復が長引くことが明らかになりました。
スイスの軽症外来患者410人を対象とした研究では、39%が初感染から7~9カ月後に持続する症状を報告しました。最も一般的な症状は、疲労(21%)、味覚や嗅覚の喪失(17%)、呼吸困難(12%)、頭痛(10%)などでした。
別の前向き研究では、急性COVID-19から回復した177名の患者(入院患者16名、外来患者161名、うち11名は無症候性感染)を対象に、急性疾患後、平均6カ月間の追跡調査を行いました。症状があった症候性感染症の外来患者のうち、19%が6ヵ月後に1~2個の持続的な症状を有し、14%が3個以上の持続的な症状を有し、29%がQOLの低下を報告しました。最も多く報告された持続的な症状は、疲労、味覚や嗅覚の喪失、呼吸困難でした。
症状による違いですが、他の症状よりも早く治まるものとしては、発熱、悪寒、嗅覚・味覚症状が挙げられ、これらは通常2~4週間以内に消失します。しかし、疲労、呼吸困難、胸部圧迫感、認知障害、慢性的な咳は数カ月続くことがあります。
また、COVID-19 の急性感染後には心理学的症状(不安、抑うつ、PTSD など)がよく見られ、中でも不安が最も多いという観察研究が報告されています。
新型コロナウイルスが細胞に感染するときに必要なACE2受容体の生体内分布
新型コロナウイルスが病原性を発揮するためには、スパイク(S)タンパク質がウイルスの宿主細胞への侵入に必須となっています。
SARS-CoV-2は、呼吸器系のII型肺胞細胞などの複数の細胞型の表面に酵素活性ドメインが露出しているシングルパスの1型膜貫通型受容体であるアンジオテンシン変換酵素(ACE2)タンパク質にのみ結合します。
ACE2受容体は、腸、血管内皮細胞、結膜上皮細胞、腎臓細胞、腎尿細管、肺胞単球やマクロファージなどの特定の免疫細胞、大脳皮質や脳幹などの中枢神経系の特定の細胞など、さまざまな種類の細胞の表面に露出しています。
新型コロナウイルスのスパイクS1タンパクが細胞表面のACE2に結合することにより、SARS-CoV-2とACE2受容体の複合体がエンドサイトーシスされ、感染細胞のエンドソームに移行します。
また、細胞表面に関連する膜貫通型セリンプロテアーゼ2 TMPRSS2(エピテライアシン;EC 3.4.21.109)は、ウイルスのスパイクタンパク質S1がACE2に結合した後、CoV-19の細胞への侵入を促進します。詳細は、関連記事をお読みください。
ヒト脳のACE2の発現を調査した報告では、ACE2の発現は、複数の脳領域で検出され、脳内で最も高いレベルのACE2発現が見られたのは、脳の呼吸中枢である錐体と延髄でした。このことは、SARS-CoV-2が正常な呼吸を乱し、息切れ、呼吸障害、重度の呼吸困難などの肺症状を引き起こす異常に強い能力を持っていることの一因と考えられています。また、ACE2は、扁桃体、大脳皮質でも強く発現されていて、新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染により認知機能障害が高率で引き起こされることと関連している可能性があります。
まとめ
コロナはただのかぜ、とか言う人たちがたくさんいるのですが、コロナはただの風邪ではありません。かなりの方々が半年単位の長期にわたり続くしつこい症状に悩まされています。こうした症状のことをlong-COVIDと言いますが、ただの風邪ではこういう長期にわたる症状は通常はおこりません。
正しい知識をもち、正しくコロナを恐れ、正しい防御につなげていただければと思います。
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