ウイルス感染と免疫応答【2】自然免疫応答

COVID-19

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自然免疫応答innate immune responseには,細胞を介する部分と介さない部分の両方があります.

自然免疫は,病原微生物に存在する典型的な【非自己の分子構造】を認識し,迅速な応答を誘起するものです.

それでは,どうやって自己を自己と認識しているのか?というと,すべての細胞の表面にはMHCと呼ばれる分子がありまして
それがあると おれやー とか わたしやー とか認識しています.
洋美ちゃんはこういう 細胞がどうやっておしゃべりしているのか? が学生の時から好きで好きでたまらなくて
気が付いたら遺伝子の専門医になっていた,という超変わり者です!!(笑)
いや.単純に自分がおしゃべりなので,『細胞のおしゃべりのしかた』つまり情報伝達が気になって仕方がないってことですよ!

細胞の内外の情報伝達は,『化学物質』で行われます.
順番にいろんな反応を分子たちが伝達して起こしていくことを カスケード と呼びます.

話を元に戻しましょう.

自然免疫は新たな標的には適応できませんが,感染部位に限局した強力な免疫応答を惹起します.この局所的応答は
引き続いて起こる適応免疫を形成するのに大変重要な働きをしています.

認識:Toll様受容体

自然免疫系が最初に特定された頃から,自然免疫は非自己抗原antigenに応答すること,特定の病原体関連分子構造pathogen-associated molecular pattern(PAMP)に反応することが明らかになっていました.
最近になり特異的な活性化経路が同定されたその中で最もよく解析されているのはToll様受容体Toll-likereceptor(TLR)の経路であるTLRは少なくとも10種類の膜タンパクからなるファミリーで,昆虫で最初に同定されたTOll受容体から命名されました.
TLRはそれぞれ特異的なPAMPを認識する最初に同定されたTLR4はグラム陰性細菌のリポ多糖を認識するが” TLR2, 3, 7, 8, 9はウイルスの構成成分を認識します.
たとえば, TLR3は二本鎖RNAを認識し, インターフェロン応答の活性化に関与しています.
TLRは, ほとんどの多細胞生物に共通するNF-KB転写因子経路とつながっているて,NF-KB経路は,適応免疫や炎症反応に関与する非常に多くの遺伝子の発現を誘導しています.

ね?!
皆さんはこの辺で嫌になるでしょうが,洋美ちゃんは変わり者なので,お目目がキラキラしてしまいます(笑)

Toll

シグナル伝達:サイトカイン&インターフェロン

サイトカインcytokineというのは,低分子の調節性タンパクのことで,距離が少し離れている細胞間のシグナル伝達分子で,ウイルス感染の多くの局面に関与します.

サイトカインは非常に多くの種類の細胞が作り,自然免疫と適応免疫の両方を調節しています.
現在,50種類以上が確認されていて,構造的,機能的に関連性がある4種類のグループ,
ヘマトポエチンhematopoietin,
腫瘍壊死因子tumor necrosis factor(TNF) ,
インターフエロンinterferon,
遊走因子chemokine
に分類されます.

感染がおこると,特異的な-群のサイトカインがマクロファージによりサイトカインが産生されます.

これらのサイトカインの作用で
局所の血管を拡張 ☛たくさんの血液が流れ込めるようになり応援を呼べる
局所の血管の透過性を高める ☛血管から外に漏出しやすくなる
局所の血管の接着性を増加させる ☛血管には通常いろんな細胞が張り付けないようになっていますが,この際必要な細胞が張り付いて炎症に対抗できるようにする
などの現象が惹起されるのです.

そして白血球が血中(血管内)から組織に移動することができるようになります.

ケモカインは感染初期につくられ,白血球を感染・傷害部位へ引き寄せることにより白血球の移動を助けます.

炎症をおこすと腫脹するのはこういうことが起こっているからです.

インターフェロンinterferonはウイルス感染で最重要なサイトカインです.

3種類の基本的なインターフエロン(α, 6, y)と,いくつかのマイナー種(インターフエロンω,インターフェロンγ)が存在します.

インターフェロン産生細胞アミノ酸数誘導される場面
アルファ樹状細胞143個/鎖
同じ鎖2本でホモ2量体を形成
2本鎖RNAウイルス感染
ベータ繊維芽細胞166 単量体2本鎖RNAウイルス感染
細菌成分
サイトカイン
ガンマT細胞,NK細胞166 単量体抗原
マイトゲン
サイトカイン

インターフェロンαとβは特に抗ウイルス作用があるので様々な細胞から産生されるのですが,インターフェロンγは後期に異なる刺激に応答して免疫系細胞から産生されます.

インターフェロンは感染細胞に抗ウイルス状態antiviral stateを誘導し,放出されると近くの細胞に感染性ウイルスの存在を警告し, ウイルス感染に続いて起きる応答と同様な効果を誘導してウイルス感染に備えさせます.

インターフェロン応答は非常に迅速で, ウイルス感染の数時間以内に現れ,適応免疫の前段階の菫要な要素となっています.
インターフェロンの様々な作用により細胞をウイルス抵抗性にし,その結果タンパク合成が止まったり,プログラム細胞(アポトーシス)を誘導します

貪食(どんしょく)

こちらは,がん細胞にマクロファージと呼ばれる食細胞が襲い掛かるイメージ画像です.(出所を書いていない画像はすべて医療法人ミネルバに著作権があります.)

マクロファージmacrophageは負食を専門にする細胞で,多くの病原体に対する防御の最前線です.
(洋美ちゃんはコロナ情報戦線の最前線です(^_^ゞ)

ウイルスなどの病原体に出会うと,それらを貪食して破壊し,断片にしてウイルスタンパクをMHC-Ⅱ分子を介して提示することでリンパ球を活性化します.

細胞障害性T細胞

マクロファージはさらに,特徴的なパターンのサイトカインを産生し,別の貢食細胞である好中球が血中から組織へ移動するといった局所の免疫応答を開始させます.
マクロファージはまた,酸化窒素(NO)のような化学物質を産生し,細菌やウイルスに対する防御機能を補助します.
貧食phagocytosisは感染に対して迅速に反応する系で,貪食に関わる他の細胞としては樹状細胞dendriticcellの複数のサブセットがあり,これらもまた適応免疫を活性化します.
病原体の中には黄食の効果を減弱したりあるいはそれを感染の過程で利用するものがいることに注意しなければなりません.

NK細胞

NK細胞natural killer cellは自然免疫応答において主要な役割を果たす細胞で,T細胞受容体を欠く細胞傷害性リンパ球で,サイトカインによってウイルス感染の場に集められます.
NK細胞は,標的細胞膜を破壊するパーフォリンperforin,標的細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)を誘導するグランザイムgranzymes(セリンプロテアーゼ)を遊離をさせることで細胞傷害機能を果たします.

普段のNK細胞は弱い細胞傷害性しか示さないのですが,インターフェロン(INF)αやINFβやサイトカインのIL-12が一緒に存在するとではNK細胞の細胞傷害性(NK活性)が増強されるのです.
NK細胞はまた,結合した抗体を標的として,抗体で標識された細胞を傷害します.
この過程は抗体依存性細胞傷害antibody-dependent cellular cytotoxicity(ADCC)といわれ,NK細胞は活性型受容体と抑制型受容体の複雑なバランスによって制御されています.

菫要な抑制シグナルは,標的細胞上に自己selfだよと認識できるMHC-I分子が存在していることです.
活性型受容体にはC型レクチンホモログからなるNK受容体複合体とkiller cell immunoglobulin-like receptor(KIR)分子が存在するウイルスタンパクはNK細胞の機能に影響を与えることがあり,直接的に作用することもあれば, NK細胞の細胞傷害活性に関連するMHC-Iタンパクの発現阻害を介して間接的に作用することもあります.
こうした発現阻害作用を有するウイルスたちがあり,彼らは細胞性免疫応答を制限しているように見えるのですが,実際にはMHC-I分子を欠いているということでNK細胞の細胞傷害活性は高くなります.

NK細胞活性への影響はウイルス誘導性インターフェロンの二次的な影響,つまりMHC-I遺伝子の転写の活性化によって修飾されます.
インターフェロンにより活性化が調節される可能性があるNK活性は, ウイルス感染後数日以内に,適応免疫応答が宿主に現れるにつれて消失します.

自然免疫様リンパ球

1.自然免疫様リンパ球Innate-like lymphocyte(ILL)
上皮系のγδ型T細胞が含まれます.
受容体構造の違いによって名前が付けられていて,正常なT細胞受容体のαβ二臺体とは異なり, γ鎖とδ鎖からなるT細胞受容体を持っています.
MHCタンパクの関与なしで特異的抗原を認識します.
一般に, ILLは限られた多様性を持った受容体を発現するリンパ球の小集団で,そのため,その数は比較的多くなっています.可変性が限定されていることにより,適応免疫のリンパ球に必要なクローン増殖という選択・増幅過程なしに働くことができるILLは,適応免疫に至る進化の中間段階のものなのか,あるいは進化の中で特別なタイプの病原体を攻撃するよう特化した適応免疫の発展産物なのかはまだまだ不明となっています.

2.NKT細胞
NKT細胞は専門化されたT細胞亜集団で,受容体の可変部が非常に限定されておりNK細胞マーカーも持っている.NKT細胞は脂質抗原を認識し,サイトカインの誘導細胞として機能するようです.

3. Bl細胞
B細胞の変異型.受容体の多様性が限られており,T細胞を媒介せずにIgM抗体を産生する.

補体系

補体complementは,血液中に存在する一連の複合タンパク群の名称です.
補体が発見された当初は,抗体が結合した対象を傷害することにより,抗体の機能を増強するものとみなされていたのですが,補体系はまた自然免疫の重要な部分を担ってもいます.

補体系は3種類の方法で活性化されます.
1.抗原に結合した抗体依存的経路
古典経路classical pathwayと呼ばれる.

2.レクチン経路MBlectinpathway
レクチンが細菌やウイルス上のマンノース糖鎖へ特異的に結合~することで活性化される経路.

3.代替経路alternative pathway
特定の病原体表面にある特異的構造により,活性化過程の最初の酵素を働かせるもので,と呼ばれます.

いずれの経路で活性化されても, 同じ酵素反応がはじまり,血清学的免疫応答がおこり,1つひとつの酵素反応が力スケードを増幅します.

活性化された補体は以下の3つの方法のいずれかにより機能します.

1.病原体表面に結合し,補体受容体を持つ貪食細胞の標的にする(オプソニン化opsonization)
2.貪食細胞に対してケモカイン様の遊走活性を与える
3.膜侵襲複合体により,膜に穴をあける(抗体で標識されていることが多い)

補体系の内在的な増幅を相殺するため,活性化した補体はカスケードが開始された場所に限局される傾向があるが,このような強力な破壊過程を制御する菫要な機能です.

あちこちに補体がたくさん飛んで行ったら,そこここで炎症が起こりますからね!
大変です.

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いかがでしたか?

脊椎動物の中でおこっている病原体と免疫担当細胞の戦い.
次は抗体が産生される血清学的免疫応答です!

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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