糖尿病男児インスリン拒否死亡事件に思うこと

しかし.

祈祷による殺人は,水を飲ませ続けた,とか暴行を加えた結果死亡したとかの印象があるのですが.

この場合,殺人罪に問うことが出来るのでしょうか?

1型糖尿病は,インスリンが必須です.

糖尿病の1型,2型の区別は,インスリンに依存する(1型),しない(2型)で決まります.

1型は膵臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が壊れてしまっていて,まったくインスリンが分泌されなくなってしまうのです.

だからインスリンを体外から補給しないと生命に関わるのです.

おそらく,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)をきたしたのではないでしょうか?

糖尿病の高血糖性の急性代謝失調であり,インスリン不足,コルチゾル・アドレナリンなどのインスリン拮抗ホルモンの増加でインスリンの作用が相対的に弱まって発症します.
インスリン不足⇒血液中のブドウ糖を代謝できなくなり高血糖に⇒代わりに脂肪を分解してエネルギーをつくる

このときに副産物として出来るケトン体が血液中に急に増えるため,血液が酸性になる(ケトアシドーシス)のです.

その多くは1型糖尿病でみられるのですが,近頃は清涼飲料水を多飲する2型糖尿病でもみられ,ペットボトル症候群(清涼飲料水アシドーシス)と呼ばれます.

糖尿病ケトアシドーシスは若い人で発症しやすいといわれています.

高血糖の症状(のどがかわく,よく尿が出るなど)と,悪心・嘔吐・腹痛などの消化器症状,
またグルコースが尿の中に大量に排泄されることで起こる浸透圧利尿により体液や電解質が失われることで脱水状態になります.
脱水やアシドーシスになると,低血圧や頻脈がみられます.
また,体は酸性になると補正するため
HCO3 + H → H2CO3 → H2O + CO2 右方向に移行して平衡を保とうとします.
このために血液中で増える二酸化炭素を速く深い呼吸(クスマウル呼吸)で飛ばそうとすることがみられます.
また,吐息にはアセトンが含まれるため,果実臭がします.

この状態は生命の危険が大きいため,一刻も早く治療する必要があります.
治療は,十分な輸液・電解質の補充,インスリンの適切な投与,糖尿病性アシドーシスをもたらした原因を改善することです. 

意識障害や昏睡状態に陥ったときには自分で発信できなくなりますので,何かあればすぐに医療機関へ代わりに連絡をしてもらえるようにしておくことも大切です.

今回,学校が対処したにもかかわらず,亡くなってしまいましたね....

親御さんからすると,一生インスリン注射なんてかわいそう,と思ったのでしょうが...

インスリンがないと生きていけないのが1型糖尿病なのです.

結果的に余計かわいそうなことになってしまいましたね...
親御さんも,インスリンを拒否したため,保護責任者遺棄致死に問われるのでしょうか?

似たような事例では,エホバの証人親が子供に対する輸血拒否で10歳で死亡した事例が挙げられるでしょうか...

あの事件は,「輸血拒否」という原因と,「死亡」という結果の間に因果関係が証明されず,
加害運転手だけが3年後に業務上過失致死で送検されて
罰金15万円に処せられたそうです.
しかし,両親,医師ともに立件されていません.

今回は.1型糖尿病に対するインスリン治療拒否ですから,因果関係は明らかです.

学校は,児童相談所に連絡したのでしょうか?
1型糖尿病でインスリンを拒否したらどうなるのか,校医に聞けば教えてくれたのではないでしょうか?

社会で子供を育てる,という観念は,わが国ではなくなってしまったのでしょうか?

 

大変残念な事件でした.

 

 

糖尿病男児殺害事件、両親「わらにもすがる思いで頼んだ」

TBS系(JNN) 11月27日(金)12時40分配信

自称・祈とう師の男が、当時7歳の男の子の糖尿病の治療を中断させ、死亡させたとして逮捕された事件です。男の子の両親が「わらにもすがる思いで頼んだが、間違いだった」と話していることがわかりました。

この事件は、栃木県下野市の自称・祈とう師、近藤弘治容疑者(60)が今年4月、重度の糖尿病を患っている今井駿くん(当時7)に対し、インスリンの投与をさせずに死亡させたとして、殺人の疑いで逮捕されたものです。

近藤容疑者は自らを「龍神」と名乗り、呪文を唱えながら駿くんの体を触るなどして、両親から治療費としてあわせて200万円以上を受け取っていたということです。

また、これとは別に、駿くんの体調に変化があると、「龍神を信じないからだ」と言って、「登録料」として3万1000円を複数回請求していたということです。

その後の警察への取材で、両親が「息子は注射を嫌がっていたので、わらにもすがるような思いで頼んだ。今は龍神に頼んだのは間違いだったと後悔している」と話していることが新たにわかりました。

警察は両親について、保護責任者遺棄致死の疑いで書類送検する方針で、さらに詳しい経緯を調べています。(27日10:54)

 

 

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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