- 2015/09/22
わたしにこの言葉をぶつけたのは,膵がんの局所再発患者さんでした.
彼女は,たまたま腹部の検査をしたら,小さなすい臓がんが見つかりました.
すい臓がんは,手術できるステージで見つかること自体が少ないのですが.
こうして,たまたま別の検査をやっていて見つかった,と言う場合が多いらしいですよね.
手術できるのは.
で.
運が良かった,と喜んで手術した.
しかし.
膵臓は,インスリンを出していますが,いろんな消化酵素も出しています.
インスリンの分泌機能は保たれたので,その補充は必要ありませんでした.
しかし.消化酵素のほうは,だめです.消化酵素剤もあるのですが,まったく無効だったそうです.
食べられない,食べるとおなかの調子が悪い.
彼女はやせ細りました.
でも.
すい臓がんが治ったのだから,手術できただけ自分は幸せなんだ,そう思って前向きに日々を過ごしました.
そして,数年.
局所再発を指摘されました.
今度は抗癌剤をすすめられました.
入院しないといけないといわれました.
そして私に出会いました.
いつも暗い表情をしていました.
あまり言葉も発していただけませんでした.
よくため息をついておられました.
ある日.突然涙ながらに彼女は話し始めました.
最初は,うつむいて.
「先生.わたしは,今まで何のために頑張ってきたんですか?
食事はおいしくない.味も変わってしまいました.好きだったものも食べられない.
やせてしまって体力がないから旅行にもいけないし好きなことも出来ない.
楽しいことなんて何もなかったけど,がんが治ったから,って思って生きてきた.
先生にも言われた.手術できること自体が膵がんでは少ないことで,それ自体がラッキーなんだって.
でも.再発するんだと知っていたら,こんな思いで頑張るんじゃなかった.
こんなことなら,あのとき手術せずに,好きなものを食べて好きなことをして時間を過ごしたかった.
一体わたしのこの数年は何のためにあったんですか?」
遠慮なく真正面からぶつけられる言葉に,わたしは言葉を失った.
しかし,やっとのことで質問した.
「ところで,手術の前に,手術したらこんな症状がおこるとか,再発リスクとかについて
どんな説明を受けたんですか?」
彼女は答えました.
「そんな説明受けていません.ただ,こんな早期で見つかること自体が奇跡的なんだ,早く手術しよう,ということだけです.」
わたしは,またしても言葉を失った........
しかも....
カルテを良く見ると,病理所見には,顕微鏡的には断端陽性であると書かれている.....
肉眼的に治癒切除に思えても,顕微鏡的には,断端陽性,つまり癌が残っているということは多々あることです.
患者さんは,治癒切除したとしか聞いていなかったが,手術直後から病理所見はそうではないと物語っていたんです....
患者さんは何も知らされてなさそうだ......
眩暈がしました.
本人に知らせなくていいという道理があるのか?
医師をしていると,こうして点を仰ぎたくなることが,よくあります.
組織の論理に押しつぶされて,本当のことは蓋をされていく.
わたしは主治医ではなかったので,それ以上関わることはできませんでした....
関わろうとすると,関われないような立場に追いやられていきます....
今でも,搾り出すような彼女の言葉を思い出すと
胸が詰まります.
わたしはそれまで,切除できるステージなら切除するのが当たり前だと思っていました.
でも.
臓器は切ったらもとには戻りません.
だから.
当たり前なんてものは何一つなくて,ただ,それぞれの治療選択肢の利益・不利益を
きちんと患者さんに判るように説明して,その上で,自己決定していただく.
もちろん,積極的には治療しない=辛い症状を緩和する治療だけを行う,という選択肢も必ず
含めて提示すべきだと思います.
なので,わたしは,近藤誠先生を全否定することは致しません.
がんもどき理論には賛同できませんが.....賛同するだけの科学的根拠がないからです.
近藤先生の本で,読んでいて困るのは,リファレンス(引用)がないことですね.
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