雑感:医療水準論;稚内市、4600万賠償へ 悪性リンパ腫の判明遅れ

わたし,もともとは血液内科でした.
悪性リンパ腫は,亡くなって剖検して初めて診断がつく,という場合もあります.

どういう症例だったかが,これではまったくわからないのですが....

もうちょっと情報がほしいですね...

しかし..

血液専門医がいるとなると,話は変わってきますね...

www.city.wakkanai.hokkaido.jp/hospital/sinryou/naika/

その病院がクリアしなければならない医療水準は,医療水準論からすると,専門医がいるならばその分野では大学病院レベル,となるように思います.

専門医もってるって,そういうことなんです.

医療水準論について少し言及してみたいと思います.

医師の注意義務について判示すされたリーディングケースでは
 「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は,その業務の性質に照し,
危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは,
已むを得ないところといわざるを得ない。」(最一小判昭和36年2月16日)とされました.

 この「実験上必要とされる最善の注意義務」という定義付けに対しては,
開発途上の治療行為であってもそれを実施すべき義務が医師に課されることになるのでしょうが,
医療の高度化に伴い,最先端や開発途上の治療を臨床医全てに求めるのは過酷すぎるとの医療側からの強い反発を招きました.
(わたしも当然反発します(*`Д´)ノ!!!)

  そこで,医師が負う「実験上必要とされる最善の注意義務」と医療の現実との調和を図り,
臨床現場における医師の注意義務の判断基準となるものとして,「医療水準」という概念が
まず学説上主張され,最高裁判所も採用するところとなりました.
 最判昭和36年2月16日の「実験上必要とされる最前の注意義務」という判示を引用した上で,
「右注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示したのです.
(最三小判昭和57年3月30日)
 その後の変遷をへて, 現在の最高裁判決の医療水準論は以下のようになっています.
 「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが
診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,
当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,
右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を
一律に解するのは相当でない。
そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に
相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,
特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」(最判平成7年6月9日)
 
「この臨床医学の実践における医療水準は,全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく,診療に当たった当該医師の専門分野,所属する診療機関の性格,その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものである」(最判平成8年1月23日)

 最高裁判決によれば,医師の注意義務の基準となる医療水準は,
① 医師の専門分野,
② 医療機関の性格,
③ 所在地域の医療環境の特性
等の諸般の事情を考慮して決せられるべきということになります.

そして,

「医療水準は,医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから,平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく,医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって,医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」(最判平成8年1月23日)と判示されています.

また,具体的な医療水準の評価としては,「当時の医療現場においては一般的であったことがうかがわれるとしても,直ちに,それが当時の医療水準にかなうものであったと判断することはできないものというべきである。」(最三小判平成18年1月27日)
と述べられています.

 

 


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市立稚内病院 医療ミスで賠償

11月24日 19時04分 NHK

 

おととし11月に稚内市の市立稚内病院で診察を受けて入院した女性が2か月後に悪性リンパ腫とわかり、その後、死亡していたことがわかりました。
稚内市は、「病気の発見が遅れたことが死亡につながった」と過失を認め、遺族に4600万円あまりを支払うことになりました。
稚内市によりますと、おととし11月、当時、稚内市内に住んでいた未成年の女性が頭痛などを訴えて市立稚内病院で診察を受けました。
その際、医師は脳や脊髄に炎症が出る「急性散在性脳脊髄炎」などの疑いがあると診断し、女性は3回にわたって入院して治療を受けました。
しかし3回目に入院した去年1月、腹部の精密検査を受けたところ悪性リンパ腫とわかり、医師が別の病院に転院させましたが2か月後に亡くなったということです。
これについて病院側は、「最初に診察した際に十分な検査をせずに病気の発見が遅れ、転院の判断も遅かったことが死亡につながった」と過失を認め、稚内市が遺族に、4600万円あまりの損害賠償を支払うことになりました。
稚内市の青山滋副市長は「こういう事態が起きてしまい結果的に残念に思っている。再発防止に向けて態勢を強化していきたい」と話しています。

 

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稚内市、4600万賠償へ 悪性リンパ腫の判明遅れ

共同通信社 2015/11/25

 北海道稚内市は25日、市立稚内病院で悪性リンパ腫の可能性を疑い転院させるのが遅れたとして、昨年3月に転院先の病院で死亡した未成年(当時)の女性の両親に対し、賠償金として計約4600万円を支払うと明らかにした。裁判外の和解。

 稚内病院によると、女性は2013年11月から3回にわたって入院。当初は急性散在性脳脊髄炎と診断されていた。3回目に入院していた昨年1月の検査で悪性リンパ腫が疑われたため、治療設備が整った病院に移ったが、その後、死亡した。

 両親側は「病気の把握と転院が遅れたことが死亡の原因になっている」と主張。市が認めた。賠償に向け、12月定例議会に関連議案を提出する。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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