【 医療裁判 】北見赤十字病院抗精神病薬投与死亡訴訟

北見赤十字病院抗精神病薬投与死亡訴訟

 

 

わたしは,この裁判の原告側協力医をしました.

わたしは,医師8年目にとある法学部に学士入学しました.商法が嫌いで卒業は出来ませんでした.

しかし.医事関係は,割としっかりお勉強しています.なので基本的には原告側にも被告側(医療機関側)にもたたず.

どちらの言い分もわかるので.あえて医事関係訴訟には踏み込まないというスタンスを取っていました.

しかし.そのわたしが,これに関しては協力するという姿勢をとりました.

カルテを見て驚いたからです.

2年目の後期研修医(医師として4年目)が一人で外来をして,入院を決定して.(おそらく必要のない入院でした.幻覚がみえると訴えただけです.

その上さらに,精神保健指定医でないとできない【 医療保護入院 】に切り替える判断をしていたのです.

理由は,「患者が治療を拒否して点滴の針を抜いたから」です.でも,いきなり抗精神病薬をてんこ盛りに出したので,めまいと吐き気をうったえて
いやだ,と言っただけですよ?そんな理由で医療保護入院なんて,内科医には発想できません.

精神保健指定医は,精神科医として最低5年の経験が必要ですから,被告には絶対無理.

医療保護入院は,強制入院です.

最初は任意入院だったから,患者が退院したいといったりとか,治療を拒否することは可能ですが???それで医療保護入院させるのか??

そして,医療保護入院に際して,まったくその意味を説明せず.(少なくともカルテからは伺えない)

書類もどうやって作成したのか???

北海道庁にも提出しないといけないはずですが,その書類の控え(コピー)もありませんでした.カルテに.

その上さらに,指導医のチェックはカルテ上は一切なし.

入院8日目に心肺停止に陥っていますが.その日まで,排便はありません.

腸の蠕動音は,ほとんど聞こえないと看護記録に書いている.(CTからも麻痺性イレウスが強く疑われる)

保護室で拘束衣を着せられているのに,水分のインアウトのバランスもとっていない.

点滴はブドウ糖フリー.

体重測定なし.

一体どういう管理をしていたのか???

そして,40度の発熱があったのに,内科コンサルトして診療したのは,1年目の初期研修医.指導医の指導した形跡は全くありません.

敗血症の診断基準をばっちり満たすのに.有効な治療はなされず.

要するに,

抗精神病薬多剤大量投与超有名な有害事象である麻痺性イレウス発症腸管浮腫により免疫機構が破綻し,腸内細菌が血管に侵入することにより菌血症敗血症ショック呼吸停止

と医療記録からは読み取れます.

心肺停止を発見してから,院内の救命医が到着まで,救急車の到着より時間がかかっています.

そして,植物状態に.

植物状態に陥ってから,胃漏を造設するのに,なにゆえか,【 全身麻酔 】ですよ?????

動けない患者に全身麻酔???(わたし,これでも麻酔科標榜医も持ってます.) ☛局所麻酔で十分です.ちなみに,気管切開のときも全身麻酔しています.一体何を考えているのか?!全身麻酔は診療報酬がお高いですからね~.....

あまりに目がテンで,協力医となりました.

しかし.既に,原告側弁護士である望月宣武先生に出会ったとき,3年が経過しており,争点整理が終わった段階で出会ったため,ほとんど参加できませんでした.

裁判の結論はかえられなかったけど.
当時,厚生労働省や内科学会にお願いして,危ない体制で指導も受けずに初期研修,後期研修させて
国民の生命が失われることはもちろん問題だけど,医師の未来が失われることも損失なので
改善を求めました.
現在は,初期研修に関しては,指導医がどのような指導をしているのかチェックする体制に変わっています.

後期研修についても,専門医制度改革が進んでいますよね.
これ.とても重要なんです.
指導医を研修医がチェックする体制があるんです.
ちゃんと指導していないと,研修とは呼べないシステムに変更される.

そうして,医師のクオリティーを担保出来るように制度が変わっていきます.
だから,今やっている専門医養成の在り方に関する検討委員会の議論はとても重要です.

反対する人たちが延期延期と騒いでいますが,こうした指導体制をとれないところは研修医がこなくなって
医師が確保できなくなると言っているのです.
でも.
研修医も後期研修医も,必要なのは指導であって,単なる労働力ではありません.
本来戦力外のはずなのに,どうして研修医が確保できなければ地域医療が荒廃するとか言っているのでしょうか?
わたしには理解できません.

今は,別の裁判の協力医をしています.

やっぱり,裁判が世の中に与える影響は大きいのだから
協力できるところは協力しよう,そうおもって.
現在は,望月先生以外の弁護士の協力医をすることもあります.

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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