尊厳死と延命治療~胃ろうなんてしなければよかった~

  • 2015/08/28
  • 新宿ミネルバクリニック院長の独り言

みなさまは,延命治療ってなんだろうって考えたことありますか?

いざと言うときは考える余裕はありませんから,やっぱり考えておかないとね,という例を
お出ししましょう.

ある患者さんの奥さんが,わたしにタイトルの発言をしました.
「こんなことなら胃ろうなんてしなきゃ良かった...」

ひとつ補足しておくと,胃ろうというのは,口からの摂食が不可能または困難な患者に対し,おなかの皮膚と胃の間にトンネルを作ってチューブを留置し,食物や水分などを流入させ投与するための処置です.
1979年に米国で内視鏡的を用いて胃ろうを造設する経皮内視鏡的胃瘻造設術 (PEG)が開発されました.それまでは開腹手術しなければならなかったのです.日本においてはPEGが1990年代に急速に普及しました。

患者さんは脳血管障害で,ある日突然倒れて寝たきりになりました.

病院では,嚥下機能が回復しないので,胃ろうを作りますか?という説明しかなかったということです.

それから7年.

意思表示ができない,寝たきりで動けない旦那様と,健常な奥様の暮らしが続いていました.

胃ろうを作らなければ良かった,という後悔....
このご夫婦は,環境的には恵まれていました.

介護する第三者のマンパワーが,24時間あるところにお暮らしだったからです.

一体どういうことかな?と質問してみると...

作らなければ自宅に帰れない,ということは聞いていたが,作った後,こんなに長く
尊厳を脅かされる形で夫の生活が続くとは言われていなかった.

作らなければ死ぬといわれたら,作らざるを得なかったけど,あのときに作った結果どうなるかを
きちんと説明されたかった....
あの時は突然で,気が動転していたけど,こんなに長い間,こんな状態ですごさないといけなくなると知っていたら,胃ろうなんて作らなかった....

奥様はそう言って涙ぐんでいました.

尊厳死.

人間が人間としての尊厳を保ったまま死を迎えるということ.

人間の尊厳って何かということが,一人ひとり違うので,難しいですね.

日本とは対照的なのですが,欧米では終末期の高齢者や認知症末期の患者は胃ろう造設の適応外であり,殆どの高齢者が延命処置を拒否して自然死を選びます。
だから欧米では寝たきりという概念自体が無いのです.

自力で食べられなくなったら,自然に死を迎える.

この状況で,無理にチューブで栄養することが,日本とは逆に「虐待」と看做されます.

わたしは,ベルギー人のカトリック司祭様から言われたことがあります.
日本では寝たきりにして老人を虐待しているのか?
日本の老人はなぜ寝たきりになるのか?
ヨーロッパには寝たきりの老人はいない.
1980年代のことです.
ところが日本では,生存期間延長が医療の至上命題という考えが伝統的に強く,延命処置の是非を議論すること自体がタブーとされてきました.

「何もできないことは医療の敗北」とばかりに,何か治療や処置をすることが医療の美学のように,医療者にも受療者にも思われてきました.

しかし,本当にそうなのでしょうか?

QOL quality of life 生活の質,という概念があります.

いずれにせよ,個々の症例で,何が最善かを時間をかけて検討することが大切ですよね.

でも.
この奥様がこうして本音を吐露できるのは,とてもいいことだと思います.

わたしもたくさんのことを考えさせていただきました.

 

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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