世界が震撼:中国からコリスチン耐性遺伝子をプラスミドで伝達する大腸菌の報告

www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(15)00424-7/abstract

中国,英国そして米国の大学からの研究者が,
Lancet Infectious Diseasesにおいて,最後の砦ともいうべき
コリスチンに対するあらたな耐性を特定したと報告しました.

おそらく畜産における抗生物質の利用が原因で生じたもので,
肉や動物や人にも存在し,細菌間で容易に移動でき,
すでに国境を越えて広がっている可能性があるというものでした.
細菌間で移動できるのは,プラスミドのおかげ(?)です...

・・・・・・.

2002年7月5日発行のCDCの週刊誌である
Morbidity Mortality Weekly Report(MMWR)の表紙を飾った
バンコマイシン耐性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現レポートが,
世界を震撼させました.

あのとき,わたしは,「人類は終わった..」と思ってしまいました.

しかし,なぜかVRSAは細菌として不安定なようで,散発的に報告されるだけで済んでいます.
おそらく,VRSAが細菌として安定していて世界的に流行したら....(以下無言)

 

あのときも,アポバルシンというバンコマイシンに似た抗菌薬が,
大量に家畜に投与されたことから,通常投与量ではおこらないはずの
バンコマイシンに対する耐性が出来てしまったのではないかと
規制する動きがすぐ出ましたね.

なぜに家畜に抗菌薬を投与するのか?

動物の消化管には様々な細菌がいます.糞便の半分は細菌の死骸とも言われるくらいです.
それらが投与した餌から栄養をもらっているわけなので,
腸内細菌を殺せば家畜は同じ量の餌で早くそだつ,ということになるからです.

しかし,,コリスチン耐性,しかもプラスミドで伝達されるって...震え上がってしまいます.


コリスチン自体は古い薬で,1959年からあります.
腎毒性のため,ほとんど使用されてきませんでした.
あまり使用されていなかったからこそ,細菌はそれに対する耐性をほとんど獲得していません.
有効なまま残ってきたのです.

いくつかの異なる耐性遺伝子が世界中に広まり,
耐性株がないことで見直されたのです.
それらの耐性遺伝子は,カルバペネムと呼ばれる薬のグループに対して耐性をもたせてしまいました.
さらに,悪いことに,細菌同士で伝達するんです.
遺伝子をですよ?遺伝子を...
人間は,触れ合っても自身の遺伝子を他人に伝達することは出来ません.
ところが,細菌というのは恐ろしいかたがた(?)で,大変柔軟に細胞質の中にある
環状遺伝子をぽん!とお隣の細菌と触れた瞬間に渡してしまうんです.
しかも..これって,菌種を超えて行えるんですよね.ありえない...
想像してみましょう.わたしのペットであるネコに,わたしがよしよしした瞬間に
遺伝子が伝達されるということを.
あ~.びっくりですね.

だから.細菌は甘く見てはいけないのです.
ペニシリンが出来て,人類は細菌を制圧できる,と思った瞬間があったようですが
むりむり.ぜんぜんむり.

耐性菌との戦い.

こんなひとたち(?)と戦うのですから,敗北する一方です.

そうすると,抗菌薬を適正に使用するしかないんです.
細菌を耐性化させないためには....

なのに.
日本では今でも,かぜに抗菌薬を出していますよね.
なげかわしい..

あ.ちなみに,日本は,インフルエンザのタミフルという薬も,
世界の売り上げの8割を占めていると言う恐ろしい国です.
国民のみなさま,どうか賢明になってください.

あ.話をもとに戻しましょう.

カルバペネムは,大腸菌,クレブシエラ,アシネトバクターなど,
腸内細菌によって引き起こされる重篤な感染症の治療に用いられてきました.
細菌がカルバペネムに耐性になった後,コリスチンは残された最後の一手であり,
コリスチン使用は増加を始めました.

家畜に対する抗菌薬の使用を,禁止しないといけない,と15年前に私たちは焦ったのですが...
(ちなみに,わたし,これでも一応,抗菌薬適正使用認定医)

なかなかうまくいかないですね..

そしてこれは中国に限った話ではないでしょう.

論文から

中国は農業で最もコリスチンを使用する国の一つである.
中国に牽引され,農業でのコリスチンの世界的な需要は2015年末までに
年間11942トンに達すると予測される.
年平均4・75%の割合で,2021年までに16,500トンまで上昇する.
獣医学的使用のためのコリスチン生産会社のトップテンのうち,1つはインド,
もう1つはデンマークで,残りの8は中国企業である.
アジアはコリスチン生産の73・1%を占める.

この論文は,食用動物の内臓に存在する大腸菌の耐性を調べるという研究報告です.
2013年にはじめて,上海の近くの集中農場の豚からコリスチン耐性大腸菌を発見し,
数年にわたりコリスチン抵抗を増大させているようです.
彼らは屠殺された動物からのサンプルだけでなく,小売肉のサンプル,
2つの病院の患者から採取したサンプルを含めて調査しています.
サンプルは,2011年から2014年の間に収集されました.

・生の豚肉と鶏肉523サンプルの内の78(15%)
・屠殺場の804の豚の内の166(21%)
・1,322の病院にいる感染症患者の16(1%)

ここから,彼らがMCR-1と名付けた,コリスチン耐性を示す遺伝子が発見されました.

最も震撼すべきは,この耐性の原因であるMCR-1遺伝子は,
細菌の,染色体の一部ではないDNAの小片であるプラスミドに含まれているということなのです....

細菌の恐るべき耐性遺伝子受け渡し方法については前述いたしましたね....

こりゃ大変だ....
いまさら農業における抗菌薬を規制しても,既にできてしまったMCR-1遺伝子は,なくならないんですよね...

みなさま,もっと,食の安全だけではなくて,こういうことに関心を持っていただけませんか?

抗菌薬を使用せずに育てた家畜である,とかの認定マークをつくって,皆様がそれを支持して買う,など

農業における抗菌薬問題を解決する方法はあると思うんです.
解決しないと,いつか,自分たちに跳ね返ってきます.

いや...
久しぶりに怖いもの見たな ((((;゚Д゚)))))))

 

 

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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