みなさま,こんにちわ.
今日は専門医機構に対する私のパブコメをこちらに掲載します.
これは別に上先生に対する反論ではありませんが
彼が新専門医制度そのものに対して反対しているので.
それではコピぺします.
こちらでキャンペーンも行っておりますので,ぜひ,ご賛同くださいますようお願いいたします.
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意見書
日本内科学会御中
日本外科学会御中
日本専門医機構御中
春暖の候,皆様方に置かれましては,ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.
現在,日本専門医機構がパブリックコメントを募集していることに鑑み,日頃様々な要望を内科学会等に対して行ってまいりましたことを含めて,専門医機構のパブリックコメントとさせていただきたく,まとめて記載させていただくことといたしました.
内科学会はよくご存じのことですが,わたくしは様々な内科学会の教育関連施設で常勤・非常勤として勤務いたして直接見聞する以外に,麻酔科標榜医でもあり,さらに医師歴8年目に法学部に学士入学して勉強したことから医事関係訴訟の原告側協力医をすることもあるため,さまざまな相談が患者側から,また現状を変えてほしいと願う医療職から多々寄せられます.そうした中で,我が国の医療の100年後を見据えて建設的に改善していかねばならないことを時折提言いたしております.
内科学会に置かれましては,歴史と伝統を重んじながらも国民から信頼される医療を目指して改革を行ってまいりました.しかし,時代は変遷していき,世の中のニーズに合わせて変革していかねばならないことを鑑みると,医療改革に終わりがあってはなりません.医療改革にはじめの一歩も終わりの一歩もないのです.ただただ最高を目指して歩み続ける.医師であるわれわれにできることはそれだけなのではないかと思っています.問題点があれば改善する.われわれがその勇気さえ忘れなければ,国民の信は得られるものと信じています.
わたくしは,希少常染色体優性遺伝性疾患患者としてこの世に生を受けました.偽性偽性副甲状腺機能低下症です.骨格異常があるため,生まれてこの方一秒たりとも正常だったことはありません.この原因遺伝子にはインプリンティングという現象があり,父母どちらからもらうかで発現臓器が異なります.わたくしは父から病的遺伝子を伝達されたため知的障害がない軽症型ですが,わたくしは女性ですので母親として病的遺伝子を伝達すると遺伝子の発現臓器が異なるため子は知的障害があり,難病に指定されている偽性副甲状腺機能低下症となり重症化いたします.
初めての出産は一卵性双生児を懐胎いたしましたが,学部4年生の春休みに36週6日で一人子宮内胎児死亡にて失いました.
医師歴3年目に生殖生理学者だった恩師を医療過誤で失いました.
医師歴8年目に臨床試験不正を告発して母校を追われました.
医師歴15年目にがんプロ大学院で死亡事故とその隠ぺいを目撃し,再発防止を求めたところ永久停学になり,自力で症例を稼ぎ,腫瘍内科コースの目標であるがん薬物療法専門医試験に合格しました.
わたくしは何にも巻かれてこなかった.それはわたくしが永遠に治らない患者にしかなれないからかもしれません.
自分の立場を守るために患者を犠牲にするくらいなら医師をやめよう.いつの日もわたくしがそう思えたのは,わたくしが患者に他ならないからかもしれません.
そういう意味ではわたくしは医師の集団にいても純粋に医師ではない.患者の集団に属しても純粋に患者ではない.ジレンマは大きく,悩みも迷いも深いものがあります.
しかし,だからこそわたくしにしか見えない景色がある.
わたくしは医療の世界をとても愛しております.失望する景色も多々見ましたが,それでもなお,医療の世界を大事に愛しく思っております.だからこそ,もっと医療が国民に愛されて信頼されるものであってほしいと切に願います.
今回,専門医制度がプログラム制で刷新されることを,内科学会の中で長年,様々な要望をしてきたわたくしは本当に有難く思っております.
どのような改革も通過点に過ぎないのですが,その一歩を踏み出すことの困難さも医療界の中にあり重々理解しております.皆様方のご苦労のすべてが報われ,真に国民のための医療が実現する一助になりますよう祈念して,ご報告並びに提言をさせていただきます.
平成29年3月31日
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
香川大学医学系研究科がんプロフェッショナル養成プラン1期生
新宿ミネルバクリニック開設者
ELSI(ethical, legal and social issues)研究会理事
仲田洋美
事案1.地域基幹病院K (がん診療連携拠点病院)
【施設認定状況(基本的領域の学会のみ)】日本内科学会認定教育施設,日本整形外科学会研修施設,日本麻酔科学会認定病院,日本眼科学会専門医研修施設(一般研修施設),日本産科婦人科学会卒後研修指導施設,日本耳鼻咽喉科学会専門医研修施設,日本泌尿器科学会基幹教育施設,日本形成外科学会認定施設,日本外科学会修練施設,日本救急医学会救急科専門医指定施設,日本小児科学会研修施設,日本脳神経外科学会専門医訓練施設(C項施設),日本病理学会病理科登録施設,日本精神神経学会研修施設,日本臨床腫瘍学会認定研修施設
【事案概略】 37歳男性.3年3か月目の後期研修医Aが一人で外来診療して妄想状態にあるとして任意入院させた.(そわそわして落ち着きがなかったとの記載が入院後にあるのでアカシジアの可能性あり.)多剤大量の抗精神病薬(クロルプロマジン換算6000㎎程度)を注射薬にて投与し,患者が入院当日自己抜針したことを理由に,精神保健指定医にしかできないはずの医療保護入院に切り替えた.カルテ上は指導医の横判が押印されているのみ.医療保護入院では都道府県に提出する書類を作成せねばならないがその控えは見当たらない.入院後6日目(6PAD)39℃台の高熱を発し内科対診.このとき診療したのは3か月目の初期研修医Bのみ.敗血症を疑いながら感染巣は検討せず,高熱だから敗血症を疑うと記載.第2世代セフェムであるセフォチアム常用量を投与するのみ.腹部CTでは拡張した壁肥厚のある腸管が描出されており,多剤大量抗精神病薬を投与されていることと,入院後一度も排便がないことから麻痺性イレウスとそれを原因とする敗血症と考えられる.8PAD心肺停止にて植物状態となる.敗血症性ショックが経過から最も疑わしい.ここまでの間もここから先も,内科・精神科ともに指導医のカルテ記載は一切ない.植物状態に陥って全く動けない当該患者に対して気管切開術,胃瘻造設術に際し全身麻酔を施行.その後転院し,心肺停止から8か月後に死亡.
1-8PADで患者に投与されたのは抗精神病薬,抗鬱薬,抗不安薬,抗癲癇薬など10種類ほどであり,入院当初発熱があったため抗菌薬クラリスロマイシンも投与されていた.これらの投与をするにあたり相互作用を検討した形跡も診療録にはない.心肺停止に至るまでの間に記載された診療録は1ページに満たないものである.指導医の書き込みも全くない.内科初期研修医Bはもう少し多く記載していたが,患者に投与されていた薬剤を検討した形跡は全くなく(3か月目の研修医に一人でやれといっても無理な内容である),こちらも指導医の指導内容は全く記載されていない.
当該精神科後期研修医Aはロシアの大学を卒業して日本の医師国家試験に合格し(ストレートではない),初期研修をよく問題を起こしている某大規模チェーン医療法人で行い,後期研修から当該病院に赴任し,3か月後にこの事故を起こしたものである.
尚,心肺停止に陥った当日,患者は38歳の誕生日を迎えた.心肺停止に陥り,精神科病棟から院内の麻酔科当直医が駆け付けるまでに9分.実に救急車の到着所要平均時間7分より長い.
特記事項として心肺停止に陥った当日は,当該患者の38歳の誕生日であった.
【 行動 】
1.原告側協力医に就任.この時点ですでに地裁の争点整理が終了しており,争点が追加できない段階であったため,協力医不在で不利な裁判運びは変えられないと判断.関係各所に杜撰な医療が提供されて38歳の青年が死亡した実態を報告し,国に対して,「申し訳ないが我々医師の自浄作用の限界であるため,制度で国民を守ってほしい.国が事実上禁止した療法を採用して事故が起こった場合,その療法の医学的妥当性合理性は医療機関側に挙証責任が転換されるため,規制が実現すれば今後本件のような事案が裁判になったら自動的に敗訴することとなる.」と抗精神病薬・抗うつ薬・睡眠薬などの多剤投与を規制するよう訴えた.その際,昔からある7剤以上の投与をしたら処方料が減算になるという規制を参考に,例えば4剤以上で投与すれば減算にすることと,この際専門医が専門的知見をもって必要だと認めた事例に関しては減算しないなどといった配慮も盛り込むことを求めた(2011年).
医政局に対しては内科初期研修医が指導をろくに受けないまま事故を起こすことにつながったことについて重く受け止め,初期研修においてどのような指導がなされているのかについてチェック可能な体制に改めるよう提言.
また,内科学会に対しては内科ローテ―トしていた初期研修医を指導医がきちんとみていなかったため,抗精神病薬で麻痺性イレウスを来して敗血症を来していることが見逃されてしまい,37歳の青年の生命が38歳で失われる結果となった.指導医が指導を怠り37歳の青年が命を落としたことを重視し,研修医放置プレイできないシステムに改善するよう求めた.また,施設認定を与えるということは,教育ができる医療水準にあることを内科学会が認めることに他ならず,施設認定が内科病床の数50と指導医最低1名と病理解剖ができることが条件であったため,結果として病理医さえ確保したら内科学会の施設認定が取れる,内科としての教育力が全く問われていないという施設認定の在り方そのものに疑問を呈し,内科学会の認定施設に対する国民の無垢な信頼を裏切ってはならないため,クオリティーを重視するよう提言.
【結果】抗精神病薬等の多剤投与規制は2012年1月に次期改定の重要検討課題にすると発表され,2014年の改訂で実現.
初期研修については既に指導医が研修医を放置できないよう,指導医の指導内容がチェックされる仕組みに変わっている.
内科学会においては,専門医養成の在り方を検討し,指導医の指導内容がチェックされるシステムに改めるべくプログラム制を採用し,その中で指導医の指導内容をチェック可能なように改められる予定である.
【考察】腸管は全身の70%のリンパ組織が分布する人体最大の免疫組織であり,腸管には多種多様な菌が存在することから腸管の免疫機構の破綻につながる腸閉塞とそれを起因とする敗血症は重篤化を来すことは容易に想像可能であるが,この判断を3か月目の初期研修医に一人でできるはずもない.地域の基幹病院がこのような医療を提供していることに驚くとしか言いようがない.後期研修医が医療保護入院を決めたり,植物状態でまったく動けない患者に対して,本来局所麻酔で十分であると推認される気管切開術,胃瘻造設術を全身麻酔で行ったことは言葉を失う.
現状,医療機関側は安い労働力として研修医が毎日診療報酬をどんどん上げてくれればよい,研修医側もうるさいことを言われずのびのびやらせてくれたらよい環境だと誤解してwin-winの関係が成立してしまっている.これを改善して医療安全を重視するのだという態度を示させねば内科学会も問題であると言われてもやむを得ない.本件は遺族により当該初期研修医を刑事告訴済である.刑法の改正で業務上過失致死の時効は10年となった.この研修医はその10年が切れるまでおびえて暮らさねばならない.このような失態を繰り返してはならない.患者はもちろん守らねばならないが,若い医師たちの未来を守らねばならないのだ.さもなくば医療は崩壊するであろう.
【提言】既出.
事案2.地域基幹病院M(がん診療連携拠点病院)
【施設認定】日本内科学会認定医制度教育病院,日本外科学会外科専門医制度修練施設,日本整形外科学会専門医制度研修施設,日本形成外科学会認定医研修施設,日本脳神経外科学会専門医研修プログラム研修施設,日本泌尿器科専門医教育施設,日本眼科学会専門医制度研修施設,日本産婦人科学会専門医制度研修指導施設,日本麻酔学会研修施設認定病院,日本皮膚科学会認定専門医研修施設,日本病理学会病理専門医制度研修認定施設,放射線科専門医修練機関,小児科専門医研修施設
【事案概要】
① 201〇年,初期研修医の確保が難しくなっていることを危惧し,改善するため見学に来た医学生に対して「なんでもやらせてくれる魅力的な病院であることをアピールする」ことを管理者が突然決めた.このため,外科系医師たちが手術見学に来た医学生に対して鈎引きだけでなく縫合といった侵襲的処置をさせるようになり,「患者に対して医学生が侵襲的行為をすることを一切説明もしていない,全身麻酔下で身体の自由を奪われた中,意思確認もせずに無資格者による医行為が臨床実習以外の場で繰り返される」ことに納得がいかなかった麻酔科から,院長が研修医の確保が至上命題であると言って何も聞き入れてくれないが,患者を守るためには一体どうしたらいいのかと相談を受けた.
② 201×年.肝細胞癌の局所再発と肺転移のある80代患者に対して,「局所再発巣を切除したら転移巣がコントロールできる」という一例報告を盾に肝臓専門医が外科医に再発巣の切除術に対してお墨付きを与えた.自分たちが麻酔をかけなければそもそも手術が成り立たない.全身状態からも手術適応が厳しいなか,この病院では術後にICUから出られず死亡するケースや寝たきりで余命を過ごすケースが続出しており,麻酔科が外科医に従って麻酔をかけなければ手術が行えないため,麻酔をかけないといいたいが,麻酔科は本来麻酔をかけてくれと言われて全身状態がそれに耐えるものであればかけるというのが役割なので苦悩が大きいと相談を受けた.
【行動】
① 大変驚いて,まずは医学生が侵襲的行為をするにあたり,どのような手続きをとっているのかについて,香川大学,岡山大学,九州大学より聞き取り.臨床実習の場以外で大学関係者などの監督責任者もいない状態で医学生に侵襲的行為を行わせることは行っていないと返答された.ところが,これらの大学の学生が当該施設に見学に行っていたことから大学に注意喚起するとともに文部科学省高等教育局医学教育課に報告し,全国的に注意喚起するようお願いした.
② 外科部長にどういうお考えなのかと質問.
【結果】
① 不知.
② 外科部長によると,この病院では全身状態から手術適応を吟味するというよりも,若い外科医たちに経験させることをさせなければ,すなわち外科学会の専門医を取得するための手術症例を確保することを優先しなければ若い外科医たちが病院に対して魅力を感じなくなりやめていってしまう,そうすると病院が成り立たない,ということを何より恐れているため,若い医師たちの執刀例を確保することが何より優先されるとの返答をいただいた.大変おどろき,このような医学的コンセンサスがない治療に関して病院倫理委員会にかけるように進言したところ,病院倫理委員会はさしたる議論もないまま通過してしまった.患者はその後,寝たきりになり余命を終えた.
【考察】
① 刑法的観点では本来,医行為は人の身体を侵襲する行為であり傷害罪が成立しうる.これが刑法35条(「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」)によって正当化されるためには(1)医学的適応性(治療目的),(2)医術的正当性(医学的に承認された方法で行われること),(3)患者の同意がある,という3つの要件を満たす必要があると一般に解されている.医療機関に見学に行って侵襲的行為を患者に同意もなく行って事故が起こった場合,当該行為の責任は行為者にあり,医師免許を持たない医学生が患者の同意もなく行った行為について容易に傷害罪に問われる可能性が高いことは明白であろう.この観点からも,M病院上層部の行為は言語道断である.
新専門医制度が地域医療を崩壊させるという主張をしている人々がいるが,一体いかなる根拠でそう言っているのか教えてほしい.
研修医たちは戦力ではない.彼らに必要なのは教育である.研修医たちが来ると教育にマンパワーも時間も割かねばならないため病院が回らなくなる,という主張ならば理解できるが,彼らの主張は真逆である.だとすると,研修医たちが来なくなると地域医療が崩壊するという主張の真意は地域医療とは安い労働力である研修医たちを放置して思いつくままに医行為をさせて例えば「植物状態の気管切開に全身麻酔」といった理解不能な医療を「医師の裁量」のもとに提供して診療報酬を上げるという質の悪い倫理的に問題を孕んだ医療のことなのか.
② 病院は患者にとって何が最善かを追求するのではなく,手術により診療報酬が得られ,若い医師たちは手術症例を得られ,経営陣・医師たちともにwin-winの関係が構築されていて,このような状況では倫理委員会が全く役に立たないことが判明した.
1999年にペンシルベニア大学のヒト遺伝子治療研究所において臨床研究として遺伝子治療を受けた当時18歳の男性患者(J ゲルシンガー)が重篤な感染症を起こして死亡したゲルシンガー事件においてもこの構造は同じである.研究者は事前の動物実験により同様の感染症リスクを認識していたにもかかわらず,そのことを患者にもアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)にも知らせていなかったという不法行為が明らかとなった.しかも,同研究所所長が設立したベンチャー企業が研究資金を提供していたこと,これらを同大学が深刻な問題であると懸念し,長時間検討しながらも是正できなかったことなどが次々に判明し,医学における利益相反の問題が取り沙汰される契機となった.利益相反は個人だけのものではない.ペンシルバニア大学においても,大学においては研究費が得られるという利益が大学の倫理委員会という組織そのものと利益相反し,倫理委員会が大学の研究費の確保という大学の利益をおもんばかって正常に機能できなかった結果,ゲルジンガーの生命の安全というゲルジンガーの利益よりも大学が得られる研究費という組織の利益が優先されたという現実が,18歳の少年の死亡という結果に結びついたのである.複数で話し合えば正しい結論が導かれる,ということが間違いであることは自明の理であろう.
ディオバン事件の渦中に責任者のひとりが某学会理事長に就任してしまうような我が国では,組織の利益相反という概念を理解することはできないのかもしれない.
しかし,国際的に失墜した我が国の医学研究の信用を取り戻すためにも,襟を正すべきであることは明白である.まずは目の前の患者という弱者(医師と患者は情報の非対称性があるため患者側が弱者側となることは異論がない)の人権を擁護するのが医師なのだという概念を,医師たちは理解すべきである.
【提言】
② 外科学会の専門医受験に際して病歴要約に相当する部分を登録させる.また,標準的ではない術式や保険適応外などの通常診療を超える診療を行う際には倫理的側面をどのようにクリアしたのか,たとえば倫理審査委員会にて議論をしたのかなどの手続きの瑕疵があるのかないのかをチェックできる体制に改めることを提言する.さらに,予後が手術によりどうなったのかをチェックする.
わたくしも日本外科学会の修練医だった期間があり,手術記録などを登録していたので存じているが,外科学会は手術記録を登録することしかしていない.現病歴,既往歴,画像所見を含めた検査結果などを登録する必要がなく,また転帰も問われていないため,なにゆえ当該患者に手術適応したのかについて全く分からず,手術適応を欠くのに術者の経験のためや症例稼ぎの手術が行われていても,たとえそのために患者が寝たきりで余命を終えたとしても何も問われていないことに,当時から疑問を感じていた.
問題が起こっていないならよいが,問題は噴出してきており,群馬大学の問題もどのような場合に倫理審査委員会にかけねばならないかなどといった知識の欠如が長期間の暴走を防止できなかった最大の要因であろう.このように登録内容を少し足して,手術適応を丁寧に吟味する,倫理的側面を吟味するという思考を研修医たちにさせることで,若い世代を指導しなければならない中堅以上の医師たちの姿勢も変化してくると期待される.
事案3.地域中核病院S
【施設認定状況】日本内科学会 教育関連施設,日本外科学会 名大関連施設(病院HPよりコピーしたまでであるが,日本外科学会にそうした認定施設の種類はないことを明記しておく.),日本整形外科学会 研修施設,日本脳神経外科学会 名大関連施設,日本泌尿器科学会 教育施設,日本産婦人科学会 専攻医指導施設,日本眼科学会 研修施設,日本リハビリテーション学会 研修施設,日本麻酔学会 認定施設,日本産婦人科内視鏡学会 認定研修施設
【事案概要】
①24歳妊婦.常位胎盤早期剥離を来し,自家麻酔で帝王切開術を施行するも死亡.
被告側は羊水塞栓による死亡で救命が困難であったと争ったが,手術開始時から終了時までに確認されただけでも3500mlちかい出血があったことなどから,常位胎盤早期剥離に伴う産科DICによる出血性ショックを来して死亡に至ったものであることが認定され高裁逆転敗訴.最高裁にて係争中.
②17歳.201△年5月,右下腹部痛,嘔吐にて近医より虫垂炎疑いで紹介受診.虫垂炎疑いで腹部造影CTや超音波検査,血液検査を施行.これらの検査についてどう評価したかについて記載はない.虫垂炎と臨床診断し第三世代セフェムと消炎鎮痛薬を処方し,軽快.5か月後,同じように右下腹部痛を来し,このときも腹部造影CTを撮影し,虫垂炎疑いで抗菌薬等の投与.血液検査上炎症所見を欠くも症状が軽快しないため緊急虫垂切除術を施行.それでも腹痛は軽快せず進行し,虫垂切除術の3日後に腸閉塞を来して緊急開腹術.このとき初めて上行結腸口側端の腫瘍性病変に気づいて切除を行った.5月から描出されていた造影効果を伴う上行結腸の壁肥厚は,10月の時点で放射線専門医が読影しているが指摘されていない.しかし,当該病変は一度も画像診断について専門的にトレーニングされたことのないわたしと,わたしの友人である放射線技師が難なく指摘できる水準であることを明記しておく.
D2郭清が行われ治癒切除がなされたが,ステージⅡにもかかわらず何の説明もなく必要性に争いがある術後化学療法(ステージⅢ以上は適応に争いがない)を「再発の危険性が高い」として施行した割には,5か月後にすでに腹膜播種を疑わせる陰影の増加がCT上認められたにもかかわらず誰もそれを注意深く読影せず,CVポートは術後化学療法の終了とともに抜去.5か月後,再び腸閉塞を来して開腹術を行い,直視下で初めて腹膜播種と診断.その後短期間で死亡の転帰をたどった.
現在地裁係争中であるが,同院は「虫垂炎を疑って虫垂は見たのだからCTのほかの部分は見なくていい」,「虫垂炎としてはあったのだから虫垂炎として治療したことに問題はない」,「専門医でもほとんどが見逃すレベルの難易度である」などと主張.これに加えて,外科学会で理事を務めたことがある大腸癌の権威,東京医科歯科大学名誉教授の杉原健一氏が,「ほとんどの専門医が見落とすレベルの指摘困難な病変」であるとか,そもそも初診時より目に見えない腹膜播種があったのだから助からなかった,などとD2郭清という治癒切除術をした患者に向かって記載し,すべての大腸癌の手術の有益性を真っ向から否定することにつながり,かつ,外科学会や消化器外科学会の専門医修練過程はそれを終了しても画像診断能力は,修練過程でそれまで画像診断能力を専門的には問うていない内科学会の専門医にはるかに劣るのだということにつながる主張をして大変注目を集めている.この主張が事実だとすると,外科専門医には術式や手術適応を議論する能力がないということとなり,今後は内科が術式を決定すべきかもしれない.
【行動】係争中につき言及できない.
【結果】係争中につき言及できない.
【考察】
① 関係ない立場で言及すると,わたくしも初回の出産で一卵性双生児の一人を36週6日で子宮内胎児死亡にて失った.わたくしは医学生であったため,大学病院で出産したが無事な出産はできなかった.25年たった今も,双子用のベビーカーを見ると涙してしまう.出産とはそういうものである.
安全ということを優先すると集約化はやむを得ない.
この病院の産婦人科は一旦閉鎖された.
事故が起こって訴訟になると,関係者はみな傷つく.お産には安全神話があり,産婆が取り上げていた文化があるため,集約化に反対する意見もあることはわかる.しかし,いざ安全性が損なわれると,やはり集約化ということに傾いていくのではないか.
わたくしも子供は妊娠したら無事に生まれてくるものだと思って疑わなかった妊婦の一人であった.わたくしとて,146センチという小さな体で双胎だったので,つらいので早く産みたいと主治医に訴えたが当時の教授の方針で正期産が望ましいとされ,誰も教授の方針に反対できなかったため聞き入れられず,正期産まであと1日という日に子宮内胎児死亡という事故が起こった.当時,母校を訴えたいと弁護士に言ってみたこともある.当時の担当医Kは日産婦で専門医制度にかかわった高名な医師である.いまでも最も後悔している妊婦がわたくしであるそうだ.
どうして教授の機嫌をとるのではなくわたくしともう一人の息子を守ってくれなかったのか.
最も後悔している妊婦であるとわたくしを表現しているK医師に対して,一番ぶつけたいこの言葉をぶつけたことはない.
25年たっていても,電話で話はするが,今でもK医師には会いたくない.辛いからだ.
最近,自分の勤務先が日産婦の施設認定を受けられない,この病院で専門医を取りたいのに取れないと訴える初期研修医に塩崎厚生労働大臣が面会しているが,一体どういうことかと思う.
わたくしのような死産経験のある妊婦は安全性の担保を最も重視していただきたいと主張するしかないし,当該病院が認定を受けたければ,指導医などを確保すればいい話ではないか.
お産にまつわる事故は,こうして大きな心の傷となることを,みな,きちんと知るべきだ.こうした経験のない研修医に振り回されて制度設計すべきでない.
②係争中につき言及できない.
事案4.地域中核病院P
【施設認定状況】日本内科学会認定医制度教育病院,日本外科学会外科専門医制度修練施設,日本整形外科学会研修施設,日本眼科学会専門医制度研修施設,日本耳鼻咽喉科学会専門医研修施設,日本皮膚科学会認定専門医研修施設,日本泌尿器科学会専門医教育施設,日本精神神経学会精神科専門医研修施設,日本脳神経外科学会専門医訓練施設
日本麻酔科学会認定病院,日本病理学会研修認定施設,日本救急医学会救急科専門医指定施設,日本形成外科学会専門医研修施設
【事案概要】94歳膀胱癌.P病院泌尿器科にて加療していたが,することがなくなったから在宅診療を受けるように言われた.膀胱癌の進行の過程で片腎となった.健腎のほうも水腎症に陥り腎後性腎不全が進行.遠隔転移は肺に2か所と考えられるが数か月変化なし.このほかに遠隔転移を疑わせる画像所見はない.
一人しかいない孫の結婚式を数か月後.結納を翌日に控えている.腎瘻を造設してほしいとお願いしたところ,「94歳という年齢を考えるとがんで苦しんで死ぬより腎不全で死んだほうがいい」,「腎瘻を作ったとしても数か月後の結婚式に出られる保証はない.当院の腎瘻造設予定日が結婚式だというのであれば理解できる.造設に何の意味があるのか.」,「腎瘻は当院では10日後に予定しており,それまでもたなかったらそういうことだよねと患者の家族とも話がついている」,「そもそも腎瘻は先生がするように患者を説得したと聞いている.」などと自論を展開.
【行動】患者は腎瘻を入れてほしい,孫の結婚式に出られるように頑張りたいと希望しており,腎不全の程度からも今日すぐに緊急なくてもいいかもしれないが悠長に待てないと話をした.平行線をたどり,別の病院にお願いして,当日施行された.
【考察】医師はここまで尊大になれるのだと開いた口が塞がらない.遠隔転移が肺に2か所程度あるだけで,数か月全く変化ないのにこれが生命予後に直ちに影響しないことは明らかである.それより片腎の状態で機能している腎臓が腎後性腎不全に陥っているにもかかわらず,腎瘻を造設しなければ1週間程度の余命となろう.孫の結婚式まで生きられるという保証はできないが,腎瘻造設を希望している患者に対して,がんで苦しんで死ぬより腎不全で死んだほうが自分の経験上よいという主張はパターナリズムそのものであり容認いたしかねる.今でもこういう医師がいるのだとびっくりするが,40代前半と割と若い医師であることに驚く.
こうした医師たちはEBMにはステップ1-5まであるということを理解していないと推測される.
Step 1 目の前の患者についての問題の定式化
Step 2 定式化した問題を解決する情報の検索
Step 3 検索して得られた情報の批判的吟味
Step 4 批判的吟味した情報の患者への適用
Step 5 上記1〜4のstepの評価
われわれがんプロは,がん対策基本法の理念を現場で遂行する医療職を養成するという目的で設置された国策大学院コースの大学院生である.文科省が初めて専門医養成に着手したという画期的大学院で,がんの専門的臨床に携わる人材を育成するための座学も充実しており,EBMとはなにかといった授業も受けて思考過程をトレーニングされてくる.昨今,EBMを誤解したガイドラインの押し付け医療が横行しているのは,EBMを正しく理解せず,EBMでもっとも重要なのはむしろstep4,つまり患者に適応する場面なのだということを全く考慮していない医師たちが多すぎる.患者に適応するにあたり,得られた医学情報のほかに一般常識や患者の希望を含めて最良の選択肢を相談するのがこの過程なのだ. 治療法Aが治療成績が最良としても患者は副作用の少ない治療法Bを希望しているかもしれない.EBMはマニュアル押し付ける医療ではないのだ.EBMの正しい理解が進むようにしなければならない.
そもそも手術適応というのは,加わる侵襲の大きさと得られることが想定される利益を比較衡量して利益が上回るというのが大前提なので,腎瘻造設という割と小さな侵襲に対してやらなければ1週間程度と勘案される余命が少なくともそれ以上に格段に伸びることを勘案すると,患者がこれを望んでいるのに医師の判断や好みでやらないという主張そのものが倫理的道義的に問題を大きく内包すると言わざるを得ない.94歳だからという年齢で腎瘻を入れて余命延長すべきでないというのであれば,法の下の平等という憲法の理念に抵触することとなるのだ.われわれ医師は神ではない.生殺与奪など握っていない.我々にできることは,ただただ目の前の患者に最善を尽くそうと努力しつづけることだ.
患者はそれから2か月近く問題なく生存中であることは申し添えておく.
【提言】日本内科学会の専門医受験の際の病歴要約のサンプルに,EBMについて記載する内容をstep4も含めたものに改編する.当該事案は内科ではないが,内科医師たちにもEBMを誤解して,こういうエビデンスがあるからこれをやらないといけない,という風に患者たちに説明する医師が増えている.最も大切なstep4の過程を当該患者とどのように過ごしたのかを必ず記載させることでEBMに対する正しい理解が医師たちに普及し,患者満足度が上がることにつながると期待される.
事案5.地域中核病院R
【施設認定状況】皮膚科学会認定専門医研修施設,泌尿器科専門医教育施設,日本外科学会外科専門医制度修練施設,日本眼科学会専門医制度研修施設,麻酔科認定病院,日本内科学会認定医制度教育関連病院,日本整形外科学会認定医制度研修施設 ,日本形成外科学会認定医研修施設,日本産科婦人科学会専門医制度専攻医指導施設,日本形成外科学会認定施設
【事案概要】4.でお示しした患者の前医である泌尿器科医師.腎瘻をお願いしたところ,引き受けてくれて当日緊急で造設してくれたが,「肺転移もあるなかこんなことやって意味があるのか」と患者や家族に暴言.退院するときには,「次の交換は〇月×日なのだけど,どうせ生きていないと思うから予約は取らない.必要ない.」と暴言.
実際に交換日が来たところ,ガイドワイヤーが抜けてしまい,交換できなくて再入院となったが,この際,「こんなことになるから嫌だったんだよね,入れるの.だけどこれに何か意味があるんでしょ?意味が.」と暴言.
【考察】事案4類似につき省略.
【提言】事案4に同じ
事案6.地域中核病院M
【施設認定状況】日本内科学会認定医制度教育病院,日本外科学会専門医制度修練施設,
日本病理学会研修登録施設,日本泌尿器科学会専門医教育施設基幹教育施設,日本麻酔科学会麻酔科認定病院,日本小児科学会関連病院
【事案概要】非常勤で外来担当医として勤務すると,去痰薬のみといった無診療投薬を1週間ごとに繰り返している患者が多数いることを疑問に思い,何のためにこういうことをしているのかと尋ねると公害医療では1か月に4回の受診をすると患者にお見舞金の出る仕組みであることを利用し,患者にお見舞金が出るようにしているとのこと.医師法20条違反である,と指摘すると,公害裁判を一緒に戦って得た権利なのだと主張し平行線をたどった.医師法20条違反にて公益通報すべく,手続きとしてまずは病院に公益通報と扱うかどうか判断を求めなければならなかったため,問題提起したところ即日解雇された.
【考察】医師法は医師にとって最も重要な法律である.それを守らなくてよいと教える初期・後期研修機関の存在は驚愕であった.
【提言】相互乗り入れによる教育病院の質の担保を行っていただきたい.
事案7.地域中核病院G
【施設認定状況】日本内科学会教育関連病院,日本整形外科学会認定専門医研修施設,日本麻酔科学会認定施設,日本外科学会認定施設,日本泌尿器科学会認定関連教育施設,日本救急医学会認定施設
【事案概要】断らない救急に力を入れている.救急外来を風邪症状で受診した30代の男性に対して,初期研修医が血液検査,胸部CTなどを施行し,外来で第3世代セフェム系抗菌薬を単回注射製剤で点滴投与.その他の内服薬などの処方は一切なし.
【行動】なし
【結果】なし
【考察】我々(H7卒.1月に阪神大震災,国家試験が終わった翌日は地下鉄サリン事件.)が研修医の時は基本的には大学病院でしか研修できなかったため,画像検査一つオーダーするにもいったい何を理学所見,問診などから明らかにしたいので施行するのかを教授に回診時にプレゼンしなければならなかった.「君たちはスーパーでどういう買い物をしますか?同じようなものなら安いものを選びませんか.」と言われ,似たような薬効であれば値段もお示ししてなぜその薬剤を選定するのかをプレゼンしたものである.わたくしは血液内科だったため,白血病の治療などは当時から高額だったためである.
初期・後期研修医にそうした指導をせず,勝手に何でも疑って検査する,1回の注射製剤の抗菌薬はどれくらいの時間何に効果があるのかも理解せず,抗菌薬に時間依存性と濃度依存性という種類があることも理解せず,こういう医療を提供するのが当たり前と教育すると,次々にそれが繰り返されて医療水準が落ちていくだけである.風邪に抗菌薬は若い世代では必要ないとずっと前に臨床試験で明らかにされている.
【提言】研修記録の中で,診療のエビデンスレベルを記載させ,エビデンスレベルの低い治療を選択した際はその理由を明記させる.
検査を施行した場合は何を明らかにしようとしてその検査を行ったのかを明記させる.
事案8.地域中核病院H
【施設認定状況】日本内科学会認定医制度教育関連施設,日本外科学会専門医制度修練施設,日本脳神経外科学会専門医訓練施設,日本泌尿器科学会専門医教育施設,日本整形外科学会専門医研修施設,日本医学放射線学会放射線科専門医修練機関,日本病理学会研修認定施設,日本麻酔科学会研修施設,日本救急医学会救急科専門医指定施設
【事案】
① 内科カンファレンスに出席していると,後期研修医が「貧血だったので輸血しておきました」と述べたため,輸血に当たっては当該輸血を行わねば生命予後にかかわるという緊急事態でない限り,貧血の原因検索が優先されるがそれをしているのか,という質問をしたところ,貧血の原因検索をしないといけないという概念がなかったようである.後期研修医はもとより指導医側もそのような認識はしていなかった.
② 80代後半.噴門部胃がんで肝転移があるのに,胃全摘術を行ってからキャンサーボードにかけ,肝転移を切除することを話し合っているので,大腸癌ならともかく胃がんの肝転移を切除するということに関する科学的根拠を欠くため認められないと言及したところ,国立がんセンター時代に笹子医師がおこなった数例の報告を「予後が伸びる」というエビデンスとして提示された.数字のマジックという言葉を知っているか,数字に惑わされないために医療統計学を理解しようとつとめたことはあるかと質問したところ,何を言っているかわからないと外科医と話がかみ合わなかった.当該患者は認知症もあり独居で抗がん剤の内服にも問題があったため危険と判断して中止して緩和ケア病棟のある病院に転院とした.胃全摘も肝転移のある状態で通常は行われないはずなのに緊急で行われており,経緯について執刀医に質問したところ,貧血のためと返答された.ヘモグロビンは10程度あり,輸血歴の一度もなく,何故貧血のため胃をとらなけば出血のコントロールができないという理由で緊急手術に踏み切らねばならないのか理解いたしかねると申し述べたところ,何故外科医を恫喝するのかと言われた.
③ すぐ近くにクリニックを併設して外来はそちらでやり,病院の外来は基本的には救急外来のみとなっている.常勤医師たちは外来をクリニックで行うため病院としての常勤医がほとんどいない状況.雇用は医療法人が行うので法人としては常勤ではあるが,施設認定は病院単位であるため,臨床研修指定病院,各学会の指定要件に「指導医が常勤であること」があるため要件を満たしていなかった.特に臨床研修責任者まで非常勤であったことは衝撃である.
【行動】③関係各所に連絡.
【結果】不知
【考察】なし
事案9.市中病院K
【施設認定状況】なし
【事案概要】
K病院院長はK大学外科で研鑽した外科専門医である.30代後半でK病院に医局人事で赴任し,そのまま残留.経営交代して経営者に.内科医の退職が相次いだことで,自身が内科医に転向.外来管理中の非結核性好酸菌症患者が咳嗽を訴えたため,鎮咳のためにステロイド吸入薬を鎮咳薬と誤認して処方.原疾患は感染症であるためステロイド吸入薬で悪化.呼吸困難が進行し,短期間で死亡に至った.
【行動】院長に対して,ステロイド吸入薬は鎮咳薬ではなく,感染症に対するステロイド投薬は基本的に禁忌とされることを説明.
【結果】一体なにがいけないのか,咳にはステロイド吸入だと反論され,「地域医療に専門医なんて要らない.君はもっと自分が活躍できる環境を求めて東京に行け.」との指摘を受けた.
【考察】このときわたしは初めて「地域医療に専門医は要らない」という言葉を聞いた.もしそれが正しいとすると,地域医療は質の悪いガラクタ医療であると言わざるを得ない.
【提言】言及せず.
事案10.市中病院T
【施設認定状況】なし
【事案概要】50代男性,妻が男性に投与されていた内服薬を半年くらい飲ませず捨て,祈祷師に祈ってもらっていた.糖尿病性ケトアシドーシス.インスリン投与にて血糖コントロールをしている中,落ち着きつつあった血糖値が突然500超えと悪化(簡易測定器ではHi).看護師にいったい夜間に何があったのかを尋ねたところ,院長(外科)がステロイドパルス療法をしたとのこと.
【行動】院長に対して,一体なぜステロイドパルス療法をしたのか尋ねると,患者がトイレに立とうとしてふらついたのを通りがかり目撃した.血圧も低かった.ショックにはステロイドパルスをするに決まっている,一体何がわるいんだ,とのこと.この患者は糖尿病性ケトアシドーシスによるショック状態で入院し,中心静脈ラインをとり,インスリンと補液で内科管理をしているなか,血糖値なども主治医に全部報告が入るように勤務時間外もいちいち電話連絡してくるよう指示してインスリンの量や補液スピードを決めていたにもかかわらず,たまたま通りかかって患者がふらついたのを発見したからといって,ステロイドパルス療法をされては,ステロイドが高血糖を招くことから患者の安全が担保できないので困る,病態も考えず元気がないならパルスというのは安易すぎると反論.
【結果】元気がない時はステロイド,なぜその当たり前のことを君が理解できないのか理解できない,これからの医療はチーム医療だ,君は宇宙人か,だから内科医は主治医制で嫌なんだ,ここは俺の病院だ,好きにして何が悪い,と言われて決裂.この病院はこれでもISO9001を通っている.
【考察】論外なので考察したくないが,ISO9001は確か,事件を起こした時の雪印乳業も取れていた.ユンケルのかわりにステロイドパルスをする救急病院管理者もいるということを我々は事実として受け入れなければならない.
【提言】I have no words to say..
事案11.医育機関付属特定機能病院W
【施設認定状況】省略
【事案】ベビー.遺伝子の異常により血小板減少症.血小板輸血を繰り返していたが,抗血小板抗体が陽性となり,輸血による効果が得られにくくなったことを理由に,担当医がリツキシマブを投与.頭蓋内出血を惹起して植物状態に.適応外処方であることなどについて全く説明もなかった.
【行動】言及できない
【結果】言及できない
【考察】適応外処方についての手続きは,大学病院であれば厳格化していると思っていたが,いまだにこういうことをできる医育機関があることに衝撃を受けた.
通常であれば,薬剤部が出さないのではないかと思料するが,チェック機構はどうなっているのかについて興味があり質問しようとしたところ,当該機関の医療安全には何日か電話したが最初は担当者が誰かわからないと返答され,次は担当者が長期不在と電話がつながらなかった.
【提言】もう嫌になったので,みなさんで考えてください.(正直ですみません)
【結語】
事案とそれに対する考察,提言を記載してきたが,なぜカリキュラム制ではなくプログラム制が必要なのかについて,原点に立ち返るべきである.
今までは教育力に問題がある医療機関が,例えば内科であれば内科病床50と病理解剖ができることが要件だったため,施設認定を受けるところが多くなったが,実際はマンパワーなど様々な問題で研修医に十分な指導ができているのかどうか疑問がある.それは昨今の大学病院でも同じである.今こそ,教育の重要性をしっかりと認識し,卒前だけではなく卒後教育にもきちんと力を入れなければ,我が国の医療の行く末に禍根を残すであろう.
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