【意見】専門医制度と標榜医制度;自由標榜制の日本はガラパゴスなのか?!

年の瀬に,専門医制度と標榜医制度について考えてみましょう.

標榜医と学会専門医の関係 
現在の日本においては,麻酔科を除く診療科については,自由標榜制がとられています.
つまり,医師免許を持っていて,初期研修さえ終えれば,法令上認められ た全ての診療科名を標榜することが出来るのです,
標榜科とは,医療機関が医療法等の規定に基づいて,広告に表示できる診療科の名称です,
医療機関のホームページはトップページは広告と見做されます.
病院の外に出す掲示も,広告に該当します.

一方,各学会の認定医,専門医,指導医などの制度 が創設されています.

麻酔科は唯一,自由標榜制の対象外となっています.
麻酔科を標榜するときは,許可を受けた医師の氏名を併せて広告しな ければならないのです.
ちなみに,わたし,仲田洋美は,麻酔科を標榜する資格を有しておりますが,ミネルバクリニックは,麻酔科を標榜しておりません.
わたしは,あくまでも総合内科専門医がん薬物療法専門医として,緩和ケアを行うのにあたり,麻酔を学んで標榜医の資格を頂いたのと,専門医世代の医師なので,専門医持っていないのに麻酔科を標榜するのに抵抗があるからです.

歴史をみていくと,昭和23年の医療法施行当時,内科,精神 科,小児科,外科,整形外科,皮膚泌尿器科,産婦人科,眼科,耳鼻 咽喉科,理学診療科,歯科の16診療科だったのです.
昭和25年に呼吸器科などの7診療科が追加されました.
昭和27年に気管食道科が追加されて24診療科となりました.
昭和35年3月,これまでには認 められてない前述第2項の規定に基づいた診療科として麻酔科が標榜診療科となりました.

麻酔科が自由標榜制から外れたのは, 昭和35年の追加の際に発出された通知文に,
「···麻酔業務の特 殊性にかんがみ、···基準によりこれを審査のうえ許可する···」とあ ったからです,
この通知と別に,麻酔科の標榜を許可すべき医師の資格 について
①指導者のもとでの2年以上専ら麻酔の業務に関する修練
②又は2年以上麻酔業務への従事とガス麻酔器を使用した300例以上の経験
③これらと同等以上の学力及び技能を有する もの
という基準を示し,医道審議会に設けられた麻酔科標榜資格審 査会が審査をする仕組みが構築されました.

麻酔科標榜の意味を考えてみましょう.
麻酔科だけが専門性を国により認められているということなのでしょうか?
しかし,精神保健福祉法に定める精神保健指定医,母体保護法に定める母体保護指定医と比べて
麻酔科だけが専門性を認定されているわけではなさそうです.

自由標榜制を維持する根拠を考えてみましょう.
 医師という資格制度において法制上の特別な違いを認めていないという現状は,
医師の自律という大原則を示すものである,という意見があるようです.
つまり,医師は互いの専門性や経験を認め合い,それに 恥じぬ努力をし続けることを自らの責任として課しているのであり,
専門性や経験を国に認定してもらうという考え自体が自らを貶める可 能性を意識すべき,という考えでです.
プロフェッション・オートノミー.
この観点からは,標榜に国による制限が加えられていること自体が問題であるという意見もあるということです.
しかし,本当にそうでしょうか?
眼科として一度も研修を受けたことがないのに,突然レーシックのクリニックを開業して
感染症を多発させて問題になったクリニックも,記憶に新しいですよね.
国民の皆様は,意外と,自由標榜制をとっていることをご存じありません.
だから,わたしが研修したこともないのに,明日から眼科を標ぼうできる,麻酔科標榜医を持っているから,実質的に
わたしに標榜できない診療科はない,と言うと大変驚かれます.

それではいつまでも,この体制でいいのでしょうか?

実は,自由標榜制は,他の先進国では取られていません.

専門医がないと標榜できないのです.
専門医と標榜がリンクすることで,その医師の専門性と,ある程度のクオリティーをみたしていることが第三者評価で担保されています.

アメリカの例を見ていくと,専門医教育は,専門医を養成する各学会37を束ねるCMSS(Council of Medical Specialty Societies)が
各学会をコントロールできる体制をとっています.
そして,このCMSSはいろんなガイドラインを作っているのですが,一番驚いたのは,この団体が,診療ガイドラインを作成するときに
みたしていないといけない透明性などの基準を設けていることです.
アメリカでは,診療ガイドラインの作成に関わる医師たちが,診療ガイドラインに関係して講演会をやったり著作物を販売したりすることは,認められていません,
利益相反に当たりますので.
そして,ガイドライン作成医員の過半数が利益相反がないこと,委員長は一切利益相反がない人物を選定しないといけないなど
大変厳しく定めています.
そして,各専門医を養成する学会は,CMSSの傘下にありますから,このガイドラインに抵触すると,学会ごとCMSSから外される
などという事態となるので,CMSSのコントロール力は,強大だと推測されます.
そして,各医師が,ガイドラインに違反して専門医をはく奪されると,標榜自体が出来なくなるため
保険会社と契約できなくなり(アメリカは自由診療なので,保険会社と各医師が契約せねば保険診療できません),医師は
医師免許があっても仕事にならなくなります.

でも.
ヒアリングしてみると,一般の国民の皆様は,意外にこういうアメリカのような仕組みが我が国でも当然できていると
思っている方がほとんどなのです.

やっぱり,本当のことをきちんと発信して,議論の土台にのせるべきだと私は思っています.

海外の制度がすべてすぐれていると言うつもりはありません.
しかし.

先般,日本医学会会長の,高久史麿先生は,ついに専門医制度と標榜制度の将来的リンクについて言及されました.
いち早く,日本医師会は反対を表明していました.
わたしは,正直,がっかりしてしまいました.
(わたし,一応,日本医師会A1会員です!医師会の皆様,いじめないでね!)

しかし.もはや,プロフェッション・オートノミーで残念ながら国民の皆様を守れない.

リタリン事件.
レーシック事件.
マジンドール事件.
世間を最近騒がせただけでも,いろいろありましたね.

みなさま,医療の問題は,ご自分のことなのです.
なぜなら,おこがましいかもしれませんが,医師の世話にならずに,生れて死ぬ国民は,
「女子高生がトイレで出産してそのまま亡くなってしまった」といった特殊な場合を除いて,ほとんどいないからです.

この国の医療のあるべき将来を
なりたくてもなりたくなくても,いつの日か患者になる国民の皆様に
是非,考えていただきたいと,わたしは思います.

それよりなにより,なぜにわが国だけが,自由標榜制を維持できてきたのか?
もしかして,我が国って本当に,ガラパゴス?
おっと.
ケーターをガラケーと呼んでいる場合じゃないかも~...

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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