専門医の種類:横断型と縦型

2015-12-31
みなさま,こんにちは.

皆様は専門医に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?

専門医には,いろいろ分類の仕方はあるのですが.
わたしが持っているのは,どれも「横断型」になります.
日本内科学会総合内科専門医,日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医臨床遺伝専門医制度委員会認定臨床遺伝専門医

横断型とは,臓器を特定せずに診療するタイプの専門医です.
感染症の専門医もこれに該当しますし,プライマリ・ケアの専門医もそうですね.

これに対して縦型の専門医は,当該臓器の問題を扱う専門医です.
例えば,呼吸器専門医,消化器専門医,肝臓専門医などがこれに当たります.

医学が細分化されて,縦割りになって突き進んだ結果,「全身を診療できない」という問題が出てきました.

臓器を見て全身を診ず,まさに,木を見て森を見れないと言うことです.

わたしがある研修指定病院で驚いた一件です.
ある研修医が,意識低下で救急搬送されてきた高齢者を
胸腹部CTを撮影して異常所見がなく,血液データーでは脱水による血液濃縮が認められると考えて
脱水症と診断して帰そうとしていたのです.
ところが,明らかに,左下顎が腫れています.
口をあけて診察すると,歯肉炎がありました.
驚いたわたしは,頭部MRIを取りました.
下顎骨の骨髄炎がありました.
虫歯を放置したのが原因です.
そのために敗血症性ショックを起こしていたのです.
しかし,感染症は重篤になると発熱がなかったり致します.
血圧が下がっていたということは,感染症としては重篤な状態なんです.
敗血症の診断基準です.

◇ 明らかな感染巣が存在する。

  上記に該当し、かつ以下の項目2つ以上を満たすもの
◇ 体温38℃以上あるいは36℃以下
◇ 心拍数90/分以上
◇ 呼吸数20/分以上あるいはPaCO2 32mmHg以下
◇ 白血球数12,000/μl以上あるいは4,000/μl以下

しかし...
今頃の研修医たちは,救急外来で勝手に胸腹部CTを撮影し,血液検査で診断基準にないプロカルシトニン
などを測定して,【木を見て森を見ず】.
一目でわかるあきらかな感染巣があるのを見落とします....
彼らが一生懸命見るのは,一目で見えない「CTの輪切り画像」.
一体どうなってしまったのでしょうか?

そもそも,日本の医療をおかしくしているのは,この画像診断の容易さです.
世界のCTの1/3が,我が国にあるのですよ?
輪切りにして何もなければ安心でしょうか??
そしてすぐに目に入る,顔面の以上を見ない.
本当に貧相な医学教育ですね.
情けない限りです...
今回の,専門医制度改革に,わたしは大賛成です.
忙しくて医師の教育指導がマンパワー的に出来ないのにもかかわらず,**学会認定施設として認定されると
信用度が増す,若手医師の確保もしやすいと言うことで,多くの病院が認定施設に現状ではなっています.
しかし,この要件は厳しくすべきであるし,第三者による評価も必要だと私は思っています.

おっと.話がそれてしまいました.

でも,あのまま帰していたら,と思うとぞっとします.

しかし...
指導する側の医師が,圧倒的に縦型の教育を受けてきた医師たちが多いのです.....

でも.
縦糸だけでは布は出来ません.
横糸がないといけないのです.

お役所も縦型なので,どこに話を持って行くか,本当に苦労しますよね!

でも.医療の現場は,今目の前にいる患者さんの問題を,すぐに解決せねばなりませんから
担当部署を探すのに時間がかかって..なんてことは許されないのです.

そのために,横断型専門医がいます.

わたしに関して言えば,「内科学」,「臨床腫瘍学」,「臨床遺伝学」という医学の分野に対して,
臓器を限定せず診療することができる,ということを
本人が勝手に言っているわけではなく
学会という第三者がそのクオリティーを認めている,ということです.

ちなみに,日本臨床腫瘍学会の求める専門医像を引用しておきます.

 

日本臨床腫瘍学会が求める「がん薬物療法専門医
我が国では歴史的に、がんの発生臓器に関連する臓器別診療科のもとで、がん薬物療法が行われてきた。 しかし、分子生物学や臨床腫瘍学の飛躍的な進歩により、異なる腫瘍の共通性が解明されるとともに専門的 な知識や技能が必要とされる薬剤が臨床導入されたため、質の高いがん薬物療法を実践するためには、幅広 い臓器のがん薬物療法を修得し実施することが必要である。そのため、臓器横断的にがん薬物療法を修得し、 豊かな学識と高度な臨床技能を備えた専門医ががん薬物療法を実践することが期待されている。日本臨床腫 瘍学会では、臨床腫瘍学の進歩に即して質の高いがん薬物療法を臓器横断的に実践できる医師を「がん薬物 療法専門医」として認定する。
がん薬物療法専門医には、以下が求められる。
1.臨床腫瘍学を中心に、がんの基礎医学、臨床薬理学、緩和医療学を修得する。
2.臓器横断的にがん薬物療法を修得した上で、患者の病態や社会背景にも配慮した質の高いがん医療を実 践する。
3.診療科・職種横断的チームのなかでリーダーシップを発揮する。
4.がん治療に関するコンサルテーションやセカンドオピニオンに適切に対応する。
5.科学的な研究手法と論理的な思考を学んだうえで積極的に臨床試験を立案、推進、実践する。 6.人材育成と教育環境の整備に取り組むことにより、臨床腫瘍学の発展に貢献する。

日本臨床腫瘍学会では、認定研修施設での研修を修了した医師を対象に、書類審査、筆記試験および口頭 試問によってその適格性を慎重に判断したうえで、上記のようながん薬物療法専門医を認定し、以てがんに 対する治療成績の向上を図り、公共の福祉に貢献する。
特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会

こんな感じです.
日本臨床腫瘍学会は,専門医の更新にあたり,現在のところ唯一,試験のある学会です.
わたしも先般,更新試験を受けてきましたが..
落ちてたらどうしよう? とちょっとドキドキします~.

何はともあれ,「どうして専門医が地域医療?」と聞かれることも多いのですが.
横断型専門医として,地域でしっかりサポートするのがわたしのしたいことです.

おそらく,わたしが大学にいたら
がんセンターと所属教室の外来と臨床遺伝部の外来を兼務していることでしょう.

それがお外に出てクリニックを開業して,なおかつ,「特にがん患者さんたちが在宅で過ごせるように,プロとして支援したい」
ということで,在宅支援診療所を開設した,ということなのです.

専門医として,病院と比べても大きく遜色のない在宅緩和ケアを提供したい.
そう思っています.

 

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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