引きこもりだった彼女 多発脳転移で失明した患者③~その病院は本当に大丈夫ですか?~

失明した彼女の1年前の手術が,必要のない拡大手術であったことについて
わたしは,驚いて,執刀医に質問しました.

乳がん学会のガイドラインも見せました.

傍胸骨リンパ節郭清は,やらない,とガイドラインに書いてあるとおり,侵襲性が高く,
生命予後をむしろ悪くするため,行わないものである.
どうしてこんな手術を,しかも,ブログを見て,あなたをやさしい医師だと思ってきてくれた彼女に対して
出来るんですか?
そもそも,玄関まで迎えに行って何になる?
何にもならないとは言わないけど.
そこで彼女が怖くて帰りたい,とならなかったまでは良かった.

でも.
治療の時点で,有害ですらある術式を,何の説明もせずに平然とおこなえる感性がわたしにはわかりません.

それって患者を裏切ることではないの?

それに対して彼はこういいました.

自分は消化器外科専門医だから,乳腺の研修は受けていなくて,判らないことがいっぱいである.
だけど,僕たちも一生懸命がんばってるんですよ.
仕事終わっても,ブログに対する問い合わせメールに一生懸命返信しています.

わたしはあきれました.
そしてこういいました.

ブログを更新したり,メールに返信する時間に,ガイドラインに書いてあることくらい頭に入れられるようにお勉強してから,やったらどうか?

 

彼は,は???ブログのほうが大事ですよ,たくさんの人たちが見てくれてるんだから,と言い切りました.

わたしは,外科部長と話し合いをしました.

しかし.こちらもびっくりする返答内容でした.

僕たちも心配でたまらないんですよね.僕たちには乳腺のことはわかりませんから.
彼に任せて本当に大丈夫か,判らないんですよね.

 

大丈夫か判らないのに,手術するなんて,おかしいと思いませんか?

絶望的だ...わたしは,そうとしか思いませんでした.

これは,本当に大変だ....

せめて,彼女の最期にしっかりと寄り添おう.そう思いました.

彼女は,乳がんの脳転移で目が見えません.
耳もだんだん聞こえなくなりつつありました.

でも.自分で食べるといって聞かなかった.
人から食べさせてもらいたくない,という気持ちが強かったのです.

わたしは,毎食時に彼女のところに行きました.
そして,わたしが彼女の口まで運んで,食べさてもらいました.

目が見えない人に,食べてもらうのがどれほど大変か,実感しました.

何の料理,なんの果物,と説明して,ちょうどいい量を口に運ぶ.

おいしい~,って言ってくれたときは,とってもうれしかった.

そうやって,わたしがお口に運んでご飯を食べてもらう,を1週間くらい致しました.
それから,だんだんとナースに交代しました.
人とちゃんと関わってほしかったからです.

みんな,あなたのこと大切に思ってるんですよ,あなたは大切な人,ということを知ってもらいたかったんです.

毎日,彼女に,彼女がどんなに大切な人か,話し続けました.

それは,シモンズ・レオナルド神父様が,ずっと私にしてくれたことです.
彼女はだんだんと,その日の担当ナースと打ち解けるようになり,わたしが彼女に張り付く時間も
だんだん減っていきました.

ある日,ナースステーションで仕事していたら,彼女が車椅子に座って,来たんです.

彼女はこういいました.

仲田先生がなかなかきてくれなかったから,看護師さんに頼んで実力行使しちゃった!

わたしは,涙が出そうになりました.

だって,彼女は目がみえなくて,耳も聞こえにくいから,少しからだの向きを変えるにも
本当に怖がって,時間がかかっていました.
ちょっと頭の向きを変えるだけでですよ??

ベッド起こしたり,食事したりなんて,もう,それまでに体位を変えるのに怖くて時間がすごくかかるし
途中でやめてしまうこともありました.

なのに.早く私に会いたいからって,起き上がって,立ち上がって,車椅子に乗ったんです.
ナースの介助とはいえ...
どんなに怖かったでしょうか?

あの時ほど,感動したことはありません.

それから,ほんのしばらくでしたが,わたしと彼女は,穏やかで温かい時間を過ごせました.

喧嘩したお姉さんも来てくれて.
姉妹も仲直りして.

うれしかったです.本当に.

彼女は,眠るように亡くなりました.

とても穏やかな,眠っているとしか思えないお顔でした.

お姉さんにお願いして,一枚,彼女のハンカチをもらいました.
そのハンカチは,その夜私の涙をたくさん吸い込んでくれました.

今でもとても大切にしています.

そのハンカチ.

何のためにうまれてきたんですか?わたしは.教えてください.
あなたは私にそういった.

その質問に答えられるだけの哲学を,わたしは今でも持ち合わせていません.

でも,あなたはわたしに,こうも言ってくれました.なくなる数日前.

何もかも人生うまくいかなくて,彼氏も人生で一度もできず,その上,こんな若くて乳がんになって
死なないといけなくて,どうしてわたしだけ,こうなのよって思ったこともあったけど.
仲田先生に会えたから,いいことあった.

穏やかな笑顔で話をしてくれたね.

わたしはあなたを忘れない.

さよならは悲しい響きだけど君とならば愛の言葉

ミスチルのこの曲が,私は大好きです.

www.youtube.com/watch?v=RUY6Yfxg9OQ

 

わたしはあなたを忘れない.

だから,わたしは生きていく.

今日と言う一日を生きているということが
人と人が出会うということが
人が生まれるということが
どんなに奇跡的で神に愛されているということなのかを

わたしに教えてくれたたくさんの人々とともに.

パパ,シモンズ・レオナルド神父の言葉を添えておきます.

死は恐れるものではありません.
死は神に抱かれるということなのです.
大切なのは,死ぬまで一日一日を生かされているということに感謝して
大切に生きる言うことなのです.

 

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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