引きこもりだった彼女 多発脳転移で失明した患者①

わたしと彼女が初めてであったとき

彼女の視力はほとんどありませんでした.

暗くぼんやりするなかで,やっと姿が見える程度だったようです.

彼女は固く心を閉ざしていました.

乳がん.多発肺転移,多発脳転移.

 

どうやってかかわっていったらいいのか,わたしは途方に暮れました.

毎日少しずつ話しかけては,疲れるので話しかけるなと言われてしまいました.

そして彼女は失明しました.

 

数日後,病棟に行ったら,彼女は錯乱していたのです.

 

殺して.

わたしを殺して.

そう大きな声を出していた.

 

一体どうしたことか?何があったのか?

わたしはてっきり失明のショックで殺してくれと言っているのだと思っていました.
ナースに聞くと,主治医から,転院するように言われて,興奮状態にあるとのことでした.

一体どういうことなのでしょうか????

失明したばかりの患者の環境を変えるってどういう了見でしょうか??????????

わたしは大変驚きました.

でも.わたしは主治医ではありません.診療科も違います.

しかも,いつも近寄っては迷惑がられていました.

しばらく彼女の近くで観察していました.
そして,スタッフに出ていくように手振りで指示してから,おもむろに話しかけました.

 

どうしましたか?

: 出ていってくれと言われたんです.真っ暗で何も見えないのに,出て行けって言われたんです.

そう聞いています.
嫌なんですよね?

: はい.知らないところに行きたくありません.

判りました.何とかしますので,少し待っていてください.

 

 

在院日数を短縮しろ,と経営者から言われるので,在院日数の伸びる患者は出そうとする.その論理は判ります.

でも.失明したばかりの患者に向かって,しかも,余命が長くないと推測される状況で
どうして転院ささねばならないのでしょうか?

経営が患者に優先する??????

そんな病院に,がんを診療する資格なんてないですよね.

わたしは主治医と話をしました.

そもそも,あなたはブログに優しそうで美しいことを書き連ねているが,実臨床で,患者さんにこんな思いをさせていいのですか?
失明したばかりの患者に向かって,在院日数という数字の為に,転院しろというのが診療態度なら,ブログにもそう書くべきだし
いいことばっかり言って,見えないところでこういうことするの???

とかとかとかとか.
いろんなことを言ってましたよ.
自分たちが順番に行くからさみしい思いなんてさせないとか.

順番にいって何の解決になるのでしょうか??
患者さんは誰にも心を開いていませんでした.
強いて言えば,ブログで見たあなたに信頼を寄せていた.
でも,今この状態で出ていけと言われてそれもなくなっている.

なのに入れ替わり立ち代り毎日医師が顔さえ見せれば,患者さんが幸せだとでも言うのでしょうか??

 

そしてわたしは,その患者を自分の患者として診療することにしました.

 

それにしても,なんてブラックなのでしょうか??

この病院は.

言っていることとやっていることが全く違います.

大抵の病院は患者のための医療をうたっていて,この病院も例外ではありません.

 

 

 

 

 

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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