自分と子どもに遺伝子の異常が原因の疾患があります。次の子どもは大丈夫でしょうか?

全国から寄せられる相談 出生前診断 遺伝子検査

遺伝子と人体

みなさま。こんばんわ。

ミネルバクリニックは、遺伝診療として 地域で診療する 一時診療の全国に例を見ないクリニックです。
ですので、本当に重たい悩みを持った方々がご連絡をくださいます。

そういうご相談をご本人たちの個人情報を抜いて皆さんにお伝えします。
遺伝診療ってどんなことやってるのか、臨床遺伝専門医がどんな役割を果たしているのかがわからない人たちが殆どと思うからです。

ある日、メールを頂きました。

「私と娘が〇×症です。
次子を考えているのですが遺伝するかしないかでなかなか踏み切りません。
ちなみに遺伝子検査済みです。
遺伝子 ▽◇
NIPTを受けたいのですが、可能でしょうか。 難聴のため、返信はメールでお願いします。」

これに対して、返信しました。

「お問い合わせありがとうございます。
ご返信が遅くなりまして申し訳ございません。

まず、現在、NIPTで▽◇遺伝子を対象にはできていないのですが、遺伝するかしないかがお分かりにならない、ということですので
それでは大変お困りと存じますので、NIPTを受ける受けないの前に、詳細をお伺いしたいと思います。
遺伝子検査の結果や、ご家系にほかに疾患のある方がいないかなどを詳細にお伺いしてもよろしいでしょうか?
メールのやり取りは無料でさせていただきますので、何なりとご相談ください。
仲田洋美 拝 」

本来、医師たるもの、医学的なことを返答するのに無料というのもどうかと思いますが。。。
ちょっとまだ現実にこういうメールのやり取りに対して課金するというシステムを構築していないのと、
いろいろな思いをわたしも臨床遺伝専門医として抱えながら日々を過ごしているため、こういう対応になっています。

返信がありました。

「返信ありがとうございます。
ご家系にほかに疾患はいません。
〇×症はわたしと子どもだけです。
遺伝子検査の結果用紙がありますので添付します。」

異常をしらべて。
返事をしました。

「遺伝子検査の書面に書かれてある下側の〇を付けてある異常ですが、こちらはメッセンジャーRNAをDNAから作る段階でのスプライシング異常を引き起こす変異です。

c.▼▽◇+2T>G
は、開始から▼▽◇番目のエクソンの最後の塩基の2つ隣の塩基(イントロンといわれてスプライシングされて削られる場所です)がチミンTがグアニンGに変わっているという意味です。
当院の
minerva-clinic.or.jp/about-human-genom-index/what-is-inheritance/from-dnas-to-protein/genom-and-epigenom/
こちらのページにお書きしてある通り、スプライシングは GT・・・・・・・・AG という配列をターゲットにしているので、GTのTがGに置き換わってGGになってしまうと、うまくスプライシングできなくなり、異常なたんぱくができると想定されるため、これは病的変異と解するのが妥当と考えます。

また、もう一つの〇△□A>Tは、おこ様に伝達されていないことから、お母様の2本の染色体の別のほうにあると思います。
ですので、両方ともが伝達される、ということはないのではと考えます。
また、〇△□A>TのほうはSNP(すにっぷ)といって、100人に一人くらいが持っているものですので、あまり病的意義はないでしょう。
そうなると、次のお子さんでの疾患伝達の可能性は1/2となります。
知りたかったのはこの数字ではないかと予測しておりますが、よろしいでしょうか?
NIPTでこの遺伝子を対象にすることは今のところできないのですが、ほかの疾患の可能性を除外したいということであればお引き受けすることは可能です。」

この症例で問題に思うことは。
本来、遺伝子検査をやった医療機関で、こういう相談がちゃんとできる体制にしておくべきだ、ということです。

わたしたち、遺伝専門医の役割は
minerva-clinic.or.jp/academic/terminololgyofmedicalgenetics/clinical-geneticist/
こちらのページ書いた通り

今までは「病理学」といって、病気の部分を組織切片にしてみて、正常と比べてどうなっているか、という学問に求められてきた「病因」つまり、病気の原因を
遺伝子が異常になってしまったことで、その最終産物であるタンパクにどういう影響がでて、病気の発症にどのような役割を果たしているのか、ということを解き明かして患者さんに説明することです。

大昔は目で見る、匂う、触れる、などして得られた異常に病因を求めてきました。
それが検査学の発達により、血液検査や病理組織所見に病因が求められてきたのがここ数十年。
今は、遺伝子変異とそれによるタンパクの異常に病因が求められています。

マクロからミクロへ、ミクロから分子へ。分子からゲノムへ。

そしてゲノムの変化から疾患の原因を解きあかしたり、どの疾患なのかを診断するのがわたしたち臨床遺伝専門医の仕事なのですが。

今、本当の意味で 遺伝診療が専門医レベルでできる 医師たちが臨床遺伝専門医でさえ少ないのです。
昔とった臨床遺伝専門医たちは、染色体異常しかわからなかった頃の人たちが多くて、分子生物学的なことを考えたり説明したりすることができない。

だからこうして 次のお子さんのリスク も説明できないから患者さんが悶々として全国からわたしにメールや電話を下さる、ということになっています。

そして、そういう、ほかの医師たちがやり残したことについて、いろんな思いを持ちながらも
今はわたしは無料ボランティアでこうした悩みに答え続けています。

どうしたらいいのかがわたしにもわからないのが現状だからです。

わたし、わかんないんですよね。中途半端に仕事する人の気持ちが。
で。中途半端な仕事をする医師のおかげで迷ってわたしに相談をくれる。

中途半端な医師たちがかけた迷惑を思うと、やっぱ今は無料ボランティアでしたいなって思ってしまいます。
どうすればいいのかな
と思いつつ。答えは出ません。

ぶつぶつ。

他の医師たちにもっとちゃんとやってよ、とは言いたい。(笑)

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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