尊厳死と延命治療~尊厳死を選んだ彼女~

  • 2015/08/28
  • 新宿ミネルバクリニック院長の独り言

延命治療・尊厳死について考える,の続きです.

Tさん,という患者さんがいました.

私とであったとき,彼女は既に寝たきりで,関節はあちこち曲がったまま硬くなっていました(屈曲拘縮といいます).
だけど,簡単な会話は出来たし,食事も口に運んでもらったら出来ました.

ある日,肺炎を起こしました.
治療して,一旦は良くなりました.
でも.
その後,飲み込む力が落ちてしまいました.

Tさんはとても細い血管をしていました.
なので,肺炎の治療のときに,十分あちこちからもれて,痛そうでした.

どうしますか?
また点滴しますか?
それとも鼻から管を入れて栄養を入れますか?

Tさんは意識はしっかりしていて,嫌だという意思表示は出来ました.
どれもはっきりと嫌だといいました.

でも.どちらもやらないと,口からろくに取れないのだから,命に関わりますよ?
いいんですか?

はい.彼女は力強く答えました.

本当にいいんですか?

はい.また力強く答えました.

判りました.あなたの嫌なことをしなくていいように,ご家族と話をしますね.

はい.彼女は答えました.

ご家族に話をしました.

Tさんは自分で意思表示を出来ます.
ですので,口からものを取れなくなったら,点滴も経鼻経管栄養もせずに自然の経過に任せたいと
しっかりと意思表示しています.
わたしは,彼女の意思を尊重したいと思いますが,いかがでしょうか?

ご家族は質問しました.
その場合,どうなるのですか?

そうですね..人間生命を維持するためには最低限の水分が必要ですが,
口からほとんど取れない状態ですので,余命は1-2週間と言ったところでしょうか.
脱水症状を起こして,だんだん弱っていくと思います.

ご家族は,こういいました.

 

今日は先生に治療をするように説得されると思っていました.
僕たちは先生に勧められたらなかなか断れないので.どうやって先生をかわそうかと
思案していたので拍子抜けしました.
妻の母が,都内の大学病院で亡くなりましたが,なくなる前,もう治療をやめてくれと言ったけど
やめてくれませんでした.
顔にばっちりマスクの後がついて.きれいだった顔が面影も無いくらいパンパンに腫れていました.
先生は,どうして,治療をすすめないんですか?
今日,先生が僕に治療をすすめないことはとてもありがたいのですが,知りたいんです.
先生はどうしてそういう考えなんですか?

う~ん.そういわれても....わたしにも,そういう時期もありましたよ.
何もしない,というのは医師として敗北なのだ,という意識が強い時期が.
それに,難しいですからね...特に本人の意思が確認できない場合なんかもあるし...
いろんな悩ましい経験をすると,やっぱり,どういう死に方をするかということを
きちんと選ばせてあげたいなと思う気持ちが強くなったんです.
がんの患者さんを看取ることが多かったので.
病院にいると,どうしても,心電図モニターをつけないで,って指示を出しても,知らない間につけられてしまったりしてね.
そうすると,せっかくの最後の時間が,患者さんではなくモニターの数字に釘付け,ってことに
なってしまうわけです.
そうじゃなくて,そういう数字にとらわれず,いい時間をすごしてほしいな,と思ったりしてね.
だから.Tさんと今からそういう時間を過ごしてほしいんです.

そうして,家族に見守られながら,自然に死を迎えました.

どういう死に方をするか,ということは,どういう生き方をするか,という問題と
根源的に同じだと私は思っています.

いろいろ考えさせてもらいました.

先生,ありがとう.
そういってくれるけど,こちらこそ,本当にありがとう.

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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