三重大学病院麻酔科問題|刑事告発に関する考察

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正義の女神

共同通信:2020年10月02日

カルテ改ざん、不正捜査へ
津地検、三重大の告発受理

三重大医学部付属病院(津市)臨床麻酔部副部長の男性准教授(48)が、実際には使っていない薬剤を患者に投与したかのようにカルテを改ざんしていた問題で、公電磁的記録不正作出・同供用容疑で刑事告発した三重大が、改ざんされたとするカルテのコピーを津地検に任意で提出していたことが2日、病院関係者への取材で分かった。
三重大は同日、地検が告発を受理したと明らかにした。地検は病院関係者から任意で事情を聴くなど、近く捜査を本格化させるとみられる。准教授が薬剤を積極的に使うよう部長の男性教授(54)から指示されたと説明していることから、教授の関与も慎重に調べる。
准教授の代理人弁護士は取材に「現時点ではコメントできない」としている。
大学の第三者委員会によると、准教授は2018年4月〜今年3月、実際には使っていない薬剤「ランジオロール塩酸塩」を患者に投与したように装って約2200件のカルテを改ざんした。使用しなかった薬剤は廃棄したという。教授は第三者委の聞き取りに「廃棄されていたとは知らなかった」と関与を否定した。
カルテ改ざんによる診療報酬の不正請求額は計約2800万円に上り、病院は全額を受給した。大学は2人の処分を検討しており、このうち准教授は懲戒解雇となる見通し。

病院によると、問題を受け臨床麻酔部の医師が相次いで退職届を提出し、うち6人が9月30日付で退職。退職届を出している医師は他にもおり、自宅謹慎中の准教授と教授を含め、全員がそのまま辞めれば、同部の約半数が欠けることになる。

三重大は2日、公電磁的記録不正作出・同供用の疑いで津地検に刑事告発し、受理されています。

今後の刑事事件の捜査はどうなるのか?

hiromi-nakata-official.com/blog-medical/mie-university-hospiptal-2/
こちらにも書きましたが。
ランジオロール塩酸塩(商品名オノアクト)自体は心臓血管外科領域の麻酔で注射器に溶解したまま用意する薬剤の一つなので、一般的には使わなくても廃棄して保険に請求するという取扱いがなされています。
昔、わたしがいた麻酔科でも、そうした取扱いは日常的に行われていました。
確かに、上の記事にある通り、他人のした麻酔に使用した薬として故意をもって書き入れたのならば、これは注射器に引いてもいないのに保険に請求するために薬を捨てた、ということになり、不正請求だと思います。

問題は、こうした本物の不正請求とそうでないものの区別がつきにくい、という点です。

他人名義の診療録を改ざんするのは以下の条文にふれるでしょう。

(電磁的記録不正作出及び供用)

第161条の2
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
前項の罪の未遂は、罰する。

電磁的記録とは?

刑法第7条の2
この法律において「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。

目的:人の事務処理を誤らせる目的であり、不正に作出(つくりだす)された電磁的記録を用いて他人の事務処理を誤らせる目的
不正に作出:権限なく又は権限を濫用して電磁的記録を作出することをいい、ないものを作り出したり、改変したりする場合も含みます。

検討

自分のやってもいない麻酔症例でオノアクトを使ったように電子カルテに記載

そうすると、今回、たとえば自分のやってもいない麻酔症例でオノアクトを使ったように電子カルテに記載をする行為は電磁的記録不正作出にあたるだろう。これは確かに論外ではあるが、「やった」と第三者委員会の聴取に応じて認めたと報道されているが、いったいどういう環境で聴取されたのだろうか。第三者委員会と言いながら、実は落としどころが決まっていてあらがえなかったのだとしたらどうだろう。そういう場で意見をはきはき言える人も少ないと思われるし、自由に発言できる環境にあったのか、是非、第三者委員会の聴取のビデオを見たいものである。
三重大学はせめて第三者委員会の報告書をさっさと公表すべきである。
それと。わたしも何回もやったことがあるが、他人が開いている電子カルテをそうと気づかずにうっかりとそのまま自分の患者だと思い込んでまったく別人のカルテに記載したりしてしまったことはある。後日、「何ヂャこりゃ?」と主治医が気が付いて連絡をくれて、システムのお兄さんに「ごめんなさいー(ToT)、なんとかしてー」と泣きつく羽目になる。すると、わたしは厳密には他人の名義で電磁記録を捏造したことになる。こういうケースは全国多々起こっていると推測される。
さて。警察は告発されたからにはそうさせねばならないが、果たして欺く「意図」があったとする「証拠」はどれくらい見つかるのか?
「うっかり」ではなく「くっきり意図をもって」オノアクトを他人名義で麻酔を自分がかけてもいない患者のカルテに記載したのか、それともわたしのように「うっかり」と他人名義だと気付かず、しかも全然別人のカルテに自分の患者だと「思い込んで」カルテを書いてしまったのかをどのように見分けるのか、わたしとしては警察の動きに大変注目する次第である。
そしてこの「第三者委員会」は本当に「第三者」だったのか?第三者性に問題はなかったのか?
いろいろ疑問な点があるので三重大学にはぜひ、第三者委員会のメンバーや聴聞の様子などを公開してほしい。
問題がないのであれば公開できるはずである。

オノアクトをすぐに使用できるように注射器に引いておいて使用しなかったが保険請求した

しかし。頻拍発作は突発的事態で準備していないと間に合わないため、オノアクトをすぐに使用できるように注射器に引いておいて使用しなかったが、当該症例のために準備した薬剤をほかの症例に使えないため、こうした薬剤は使用するつもりで引いておいたが思いのほか使わなかったケースなども発生するため、実際に使った量と請求の量が微妙に違うことは世の中に存在する。
厳密に言えば不正請求になるのであろうが、たとえばレストランに行ってメニューを注文し、やっぱ食べたくないとか吐き気が突然したとかで一口も手を付けていない、という状況であなたは支払いを拒否できるだろうか?
診療でややこしいのは、われわれ医師は患者の求めで処方するのではなく、医師が必要だと判断して処方するという処方裁量権が幅広く認められている点だ。これを、「オノアクトは高いのにけしからん」と言っても、必要もなさそうなのに処方したり行われたりしている検査は世の中に五万とある。もちろん、世の中には本当にけしからん医者もいて、不正請求で医業停止になったりしている。
それでは、その線引きはどこなのか?

他の医師がやってるからいいじゃないか、という論法はわたしは嫌いなのでするつもりはない。

しかし、脈々と麻酔科の中で行われてきてそれが常態化しているのであれば、そこに犯罪を犯す「意思」はない。

第38条
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

この規定がある限り、過失犯が認められている犯罪でなければ、犯罪を犯す意思がない限り処罰はされない。
さて。三重大学関係の共同通信の報道によると、2018年4月から2020年3月までの2年に2800万円、2200件のオノアクトの不正請求事例があるとのこと。

この中でいったいどれくらいの事例が本当の不正請求なのか、ということをどこで線を引くのか?
刑事事件として立件するときにはそこが最も問題になるだろうとわたくしは考える。

追記:10月25日
以下の意見をとある弁護士から頂きました。
刑法38条1項の「罪を犯す意思」(故意)の解釈は間違いです。使っていない薬剤を投与していたようにカルテに記載していたことの認識があれば故意はあります。不正請求が麻酔科の中で横行しているから問題ないという誤解は、38条3項「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」のとおり、故意があるものとして扱われます。

これに対するわたくしの見解は以下の通りです。
『薬剤は注射器に引いた時点で使ったことになるという解釈が一般的です。当該患者のために用意したのですから。
先生がたの解釈自体が間違っているので三重大学がこんな態度に出ているのでしょう。
例えば抗がん剤1かい100万円くらいします。それを溶解して投与しようとしたときに患者の気が変わったらどうします?それを病院がかぶるんですか?例えば急に会社から呼び出されたので今日は無理、とか。
だから言ってるじゃないですか。レストランに行って注文して運ばれてきた時点でいらないといってお金払うことを拒否できます?
患者の求めに応じて投与するんじゃないんですよ。薬剤は。
あくまでも医師が必要だという判断をするんです。そうすると心外の手術では一般的に必要だから溶解しておくのが通常なのです。
それを実際に投与しなかったからと言って保険請求できないという決まりはありません。
わたしの解釈の誤りではなく先生の認識が誤っています。
だからこそ、これは一大学が判断すべき問題ではなく、厚生労働省としてこのような取り扱いをダメだとするのかどうかを話し合って決めるべきだと言っているのです。
そしてその取扱いがダメだと決まっていない以上、これを遡及して犯罪だとすることは出来ないはずです。』

10/25追記:溶解した注射製剤の保険請求取扱いの歴史

注射製剤はかつてはアンプル(ビンを割るタイプ)は1本単位で請求できるが、バイアル(上にゴムが付いているタイプ)は1本単位で請求できず、1/10使ったら1/10しか請求できない決まりであった。このため、もったいないからとバイアルを冷蔵庫においておき、何回も注射器で引いて複数の患者に使用する、という取扱いがなされ続けた結果として、近畿地方の整形外科で外来患者がそうしたバイアル製剤(ヘパリン)の使用により多数敗血症を起こし、死亡事例も出るという惨事を招いた。
このため、バイアルであっても残をほかの患者に使いまわしたりせず、1本単位で請求する決まりと変更された。

10/25追記:患者に使用する目的で引いた注射製剤の取扱い

今回、架空の患者をでっちあげて使用したことにしているのであれば、それは問題なく不正請求である。
しかし、こと心外領域の麻酔では何度も言っているように間に合わないためオノアクトは引いておくという取扱いをしていて、これを使用する機会がなかったことは結果論であり、当該患者に使用する目的で引いて準備しているわけである。
それを保険請求すること自体が不正であるという決まりがあるとしたら私に連絡してほしい。
全国の麻酔科ではこうした場合、少し使ったことにして請求しているのが通常である。使用量をゼロとすると請求ができない仕組みなためである。
しかし、一旦当該患者のために引いた注射製剤はほかの患者に使えない。
このような取扱いが本当に不正なのか?不正であるという確固たる明文規定を欠くのであれば、これを不正ということは出来ないはずだ。
大体は、診療報酬の請求マニュアルみたいな本(わたしたちは青本と呼ぶ)にQ&Aという形で各団体が行った質問に対して返答がなされている。
しかし、『使ってもない薬ですが患者のために用意して結果的に使わなかっただけなので使用量ゼロで1本請求していいですか』などという馬鹿な質問をする団体もないであろう。
したがって、これに対するQ&Aはないと考えられる。
もしも明文規定があって、それを知らずに行い続けたのであれば全国の麻酔科医たちが「法の不知」のために不正請求を行ったということとなり、弁護士のいうとおり、刑法第38条3項により罪を免れることは出来ないかもしれない。
しかし、不正請求は詐欺罪を構成するのであり、詐欺罪に過失犯はない以上、知らずにやってしまったことについて罪に問われることはないのではないか。

また、電磁的記録不正作出及び供用にも過失犯の定めはない。
ゆえに、法の不知はこれを宥恕せず、という問題ではなく、診療報酬の請求のあり方として当該患者に対して使用する目的で用意した薬剤を《結果的》に使用する機会がなかったからと言ってそれを請求してはならないとすると、オノアクトを頻拍発作の最中に薬品庫から出して注射器に準備してという手間が発生している間に下手すると心停止するなどの危険があるためこのような取り扱いをしているわけであり、それを禁止するだけの法的根拠を厚生労働省や三重大学ならびに検察は持つのかという根源的な疑問をわたしは投げかけているわけである。

刑事事件化の予想を立ててみる

難航するであろう。

懲戒解雇の問題

さて、次に疑問となるのは准教授のほうは懲戒解雇されるという点である。

指摘した通り、オノアクトに関しては注射器に引いて使わないケースもままあり、そういう症例をすべて不正請求と断じる事もまた難しい。
こうした例を、「こんなことしては駄目だ」という指導を一度も病院としてしたこともなく、「麻酔科の慣例」として脈々と続けてきたことを、突然、「不正ダー」と言って、「首っ」と言えるほど大学は麻酔科医たちに指導したのだろうか?
法律好きな医師であるわたしが気になるのはその点だ。
要するに、この懲戒解雇がどれくらい法的に有効なのかということである。

懲戒解雇は労働者に対する最も厳しい雇用側の懲罰であり、濫用に関しては厳しい判断がなされる。
1.懲戒解雇処分の根拠規定があること
2.労働者が在職中に懲戒解雇に該当する行為をしたこと
3.懲戒解雇が相当であること

この3つが必要になるようであるが、さて、今回はおそらく三重大学は、不正請求という犯罪行為をしたということをもって懲戒解雇に踏み切ったのではないか。
だとすると、犯罪としての要件をどれくらいみたしているのかが気になるのであるが。

それよりなにより、前のブログから指摘している通り、オノアクトはもともと注射器に引いておいておくという取扱いが良くなされる薬であって、これをたとえば厚生労働省から そんなのやっちゃだめだよ という指摘も一度もせずに全国の麻酔科で累々と行われ続けて突然三重大学でこんなことになったのだとすると、ちょっとどうなのかと思う。

だとすると、告発したのは良いが、警察の捜査を待っていると、現実にはなかなか進まず長期化するのではないかと考える次第である。

もしも、これをいきなり三重県警が書類送検し、検察が立件したとすると、全国の麻酔科で
どういうことだ?と暴動??が起こることは必至だ。

さて。三重地方検察庁にこんな事例でそんな勇気あるのか?
別にわたしは、立件するなとは言わない。だって検察官の判断なのだから。

しかし。これを立件したら 俺たちも立件されるのか と全国の心臓血管外科麻酔という超スペシャルな麻酔をかけるエリート麻酔医たちが総立ちするであろう。

そして、わたくしも是非、「守る会」を作って参加したいくらいである。

言っておくが、わたしはこと刑事事件化において医師側に立ったことは今まで一度もない。
あの大野事件すら医師側に立ったことはない。
おっぱい舐めちゃった事件なんて なんやそれ と全然検察側に応援メッセージを送り続けている。
医師だからと言って犯罪に問われないなんてことはあってはならないのだ。
医師は特別ではない。

しかし。この1件はきな臭すぎる。

検察よ。やるならやれ。
わたしは初めてキミたちと対峙しよう。

確かに一部改ざんした事実については認めているようだが、それはおそらく微罪の部分ではないかと考えている。
2800万のどれくらいが本当に改ざんと呼べるものだったのかについて、私たちは正しい情報を求めている。

とにかく、こんな、小山のボスざる争いをするからいけないのだ。クソじじいどもめ。

あら。わたくしとしたことが。失礼いたしました。本音です。
わたくしはこれからも、こうした クソじじいの撲滅活動にいそしみ、若い医師たちの未来を希望が持てるものにしていきたいと考えています。

わが業界は、医療だけでなく、福祉の書類もお書きしていて、医師がかかわる事業に投下される国家予算は半分近くを占める業界です。
われわれはそうした予算を使う実行部隊として襟を正し、清浄であらねばならないのだ。

なのになんだ。この ジジイどもめっ(*`Д´)ノ!!!
めっちゃむかつく。

国民の皆さま。こんな医療をわたしは変えたい。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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